鈴木みのる失神アクシデントを受けての9・28大阪…選手の貴さ、命の大切さを実感した天龍プロジェクトの長い一日【週刊プロレス】
天龍プロジェクトが9・28大阪(アゼリア大正ホール)の大会前に、同日の昼、特別興行を開催すると発表したのは約1カ月前の8月22日。対戦カードは、鈴木みのる&“brother”YASSHI&拳剛組vsドン・フジイ&石井智宏&火野裕士組の6人タッグマッチのみ(後日、時間差バトロイヤルが追加された)。これは7月6日、同所でおこなわれたWAR世界6人タッグ選手試合でアクシデントが生じ、没収試合となったことで組まれた“決着戦”だが、関係者の間ではある祈りに似た思いの下で闘いが繰り広げられた。 【写真】現在の天龍源一郎さん
7・6大阪を取材したメディアが皆無だったため、アクシデントの詳細が報じられなかったので、ここであらためて振り返っておく。 3本勝負でおこなわれたタイトルマッチの2本目、鈴木が火野のスパイラルパワーボムでマットに叩きつけられてフォール負けを喫した。しかしカウント3が数えられても、鈴木はピクリとも動かない。異変の気づいた吉野恵悟レフェリーが鈴木の状態をチェック。1分間のインターバルを経ても鈴木が動かなかったため、試合はそこで打ち切られた。 その間にスタッフが救急車を手配。搬送に備えてサードロープは取り外された。スタッフが救急隊に事情を説明している間に鈴木は意識を取り戻し、火野とマイクでやり取りを始めるも、一度下った裁定は覆らず。大事を取って診断を受けるべく、病院へ向かった。 会場では混乱を防ぐため、あらためて事情を説明した上、試合結果とタイトル移動なしが発表された。一方で、鈴木に付き添って病院に向かった嶋田紋奈代表から逐一報告を受け、最終的に公式HPで「脳に出血などの異常はなく、脳震とうとの診断」「医師から許可が下りたため、(鈴木は)帰路についた」と報告されるとともに、再戦に向けて努力する旨が伝えられた。 そして迎えた再戦の舞台。大会開始前にリングに上がった嶋田代表は、「7月6日にご来場いただいた皆さま、そして選手の気持ちを汲んだ形で、まったく同じ形で再戦ということにはならないですけども、今日という日を見届けていただきたいなと思い組みました」とあいさつ。本戦に組み込まなかったことに関しては、「最初から人数を限定しておこないたいなと思ってまして、少なければ少ないほど、この興行の濃度、密度、思いが高まると思います。今日来ていただいた方々には、そういった思い、選手の貴さ、命の大切さをしっかりと心にとどめて今日のお昼、興行に来ていただいたと思いますので、ほんとに感謝申し上げます」と続けた。 9月18日の新木場大会で王者トリオが入江茂弘&岩本煌史&岩崎孝樹組に王座を奪われたことで、ノンタイトル戦、60分1本勝負となった再戦。鈴木が火野に向かって「お前が出て来い」と火野を指名すると、火野も「当り前よ」と応じて試合開始のゴングが鳴らされた。 激しい場外乱闘を経て、YASSHI、フジイがそれぞれつかまる展開に。6人タッグならではの連係プレイや合体技、タッチワークは見られたものの、基本は前回の流れから、火野と鈴木、石井と拳剛、フジイとYASSHIがそれぞれを意識する中で試合は進んでいった。 鈴木は火野と延々とチョップの打ち合いを繰り広げる。互いに胸を突き出して一歩も引かず。気になったのは前回、失神に至ったスパイラル式パワーボムを回避したことより、鈴木が左腕で逆水平チョップを放ち、右腕を一切使わなかったことだった。 最後は石井の垂直落下式ブレーンバスターで拳剛がマットに沈み、30分近くの激闘に終止符が打たれた。試合後はノーサイドで6に並んで手を上げようとしたが、石井が断固これを拒否。一人さっさと引き揚げ、孤高の戦士を貫いた。 決着がついたことよりも、6選手が無事にリングを下りたことにホッと胸をなで下ろした嶋田代表。6選手の入場時に鉄柱が立つ四方のフロア、4コーナーに塩をまいていたのが印象的だった。 夜の部のオープニングでもリングに立った嶋田代表。昼の特別興行を経て、「全選手たちが無事にリングを下りることがどれだけ大切なことか、それだけを実感しました。来年こそは、大将(天龍源一郎)がこのリングで『エイ、エイ、オー!』をするよう、頑張って天龍プロジェクトを続けていきたいと思いますので、今日も腹いっぱい楽しんでいただいて、腹から声出して、ストレス発散して、天龍プロジェクト特有のスタイルと楽しんで帰ってもらいたいなと思います」とあいさつ。 そして熱闘の連続となった夜の部の6試合が終わるとともに、重い空気を吹き飛ばして、天龍プロジェクトの長い一日は幕を閉じた。 橋爪哲也
週刊プロレス編集部