週刊・新聞レビュー(12・16)「社会に分断線を引いた安倍政治 衆院選で大勝」徳山喜雄(新聞記者)
投票率低迷による政党政治の危機
今回の衆院選(小選挙区)の投票率は52.66%。戦後最低だった前回2012年の59.31%を下回り、最低記録を更新した。 民主は不振、みんなの党は解党、維新は勢いを失い、第3極が沈んだ。おもしろみのない選挙であった。 「政権交代につながる可能性のある野党第1党がなければ、選挙が緊迫感を欠くのは当たり前だ。野党が再生しなければ、日本の民主主義それ自体が漂いかねない」「特定の支持政党を持たない『無党派層』の膨張に政治家はより危機感を抱くべきだろう」(日経15日朝刊)と日経新聞の編集委員は警鐘を鳴らす。 「もし16年夏の参院選までに反自民の受け皿ができていなければ、投票率はもっと下がり政党政治そのものが重大な岐路に立つ事態になりかねない」 日経新聞12月15日の社説は、政党政治の危機を強く訴えた。 安倍首相(自民党総裁)は14日夜、与党が圧勝したことを受けて、憲法改正に向けた議論を進めていく考えを表明している。 毎日新聞は1面に社説を掲載、「わが国はかつて政党政治が機能不全を来し、やがて戦争への道を歩んだ苦い歴史がある。野党が頼りにならなければ、自民党政権が行き詰まった時に政治が誤った方向に走りかねない」とし、「戦後最低の投票率はそれほどに危うい」とした。 投票率を回復させる。それは各政党が全力をあげて取り組むべき課題であろう。 東京新聞15日朝刊の社説は選挙報道の課題にふれ、「序盤から終盤まで一貫して、自民党の優勢が伝えられた。あくまで調査に基づく選挙情勢の報道ではあるが、有権者に先入観を与えることはなかったか。報道の側にも自戒が必要だろう」と問題提起した。 メディア側は選挙報道を検証するとともに、投票率を上げる手立ても考える必要があろう。(2014年12月16日) ※この批評は東京本社発行の最終版をもとにしています。 ------------------ 徳山喜雄(とくやま・よしお) 新聞記者。近著に『安倍官邸と報道―「二極化する報道」の危機』(集英社新書)。