週刊・新聞レビュー(12・16)「社会に分断線を引いた安倍政治 衆院選で大勝」徳山喜雄(新聞記者)
国民の合意を得ない政治
第47回衆院選は12月14日投開票され、与党の自民、公明両党は326議席を獲得、定数の3分の2を上回った。予想を超える与党の大勝となった。第3次安倍晋三内閣は閣僚を入れ替えないまま24日に発足させる方針だ。 「安倍さんの術中にはまってしまった」 維新の党の江田憲司共同代表は14日夜、東京都内のホテルの開票センターで振り返った。 閣僚の「政治とカネ」をめぐる相次ぐスキャンダルで、一時は政権の足元がぐらつきかけたが、安倍晋三首相は急襲するかのように衆院を解散、選挙戦に突入した。準備不足の野党は虚をつかれた恰好になり、野党第1党の民主党は候補者が198人と過半数(238人)にも届かなかった。 「民主党政権による混迷の記憶はまだ新しい。……選挙の位置づけが『政権交代』ではなく『業績評価』となった時点で、政権側の作戦勝ちだった」(日経15日朝刊)と日経新聞の政治部長は説く。 「安倍政権はいくつもの分断線を社会に引いた。特にねじれを解消した昨夏の参院選後、その動きはペースを上げた」と朝日新聞15日朝刊の社説は「安倍政治の2年」を批判した。 安倍政権は国論を二分する特定秘密保護法や集団的自衛権、原発再稼働などをめぐる論議を十分にせず、国民の合意をえないままに決めていった。秘密保護法案は強行採決され、集団的自衛権の行使は一内閣の閣議決定で容認された。 いずれも国のかたちを変えるほどの安全保障政策の大転換である。政府は国民の多数が反対する原発再稼働も既定路線として進めている。熟した議論にいたらず国民の間に明確な賛否があるテーマを、「数の論理」や「政権の力」で強引に決めていくことで、社会に分断線が引かれ、国民に亀裂が走った。 安保政策や原発・エネルギー政策を論じる保守系とリベラル系メディアの主張も鋭く対立した。今後、格差もますます広がり、社会の二極化はさらに進かもしれない。 「〔安倍政治に〕求められているのは、分断ではなく国民的な合意形成のために、異論や反論を粘り強く包み込み、融和を図っていく覚悟だ」(朝日15日朝刊)と朝日新聞のゼネラルエディターは問う。