「僕みたいな役立たずは死んだ方がいい」胃がんになった20歳の浪人生を救った「医師の言葉」に涙が止まらない
「僕が悪いんです。父の、言う通りですから。僕の中にがん細胞が生まれたのは、きっと、僕がもう死にたいと思ったからなんです」 先生がゆっくりした口調で尋ねる。 「だから、がんを治療しないで、死んでしまおうと思ったのかい?」 「はい」 あまりに人生がつらく、もう死んでしまいたい。これが彼の本音だったのである。 それが明らかになったところから、先生とがんの若者との対話が、本当に始まった。 「死にたいと思ったから、あなたの身体にがん細胞ができたと言ったけれど、むしろ逆だね」 「逆?」 怪訝な顔の若者。 ● 決して死のうとしない細胞 自分で死のうとする細胞 「役に立たなくなって死にたいと思うのは、正常な細胞だ。がん細胞は死にたがらないのが特徴だよ。決して死のうとしない細胞が増殖してできたものが悪性腫瘍、つまり、がんだと診断する。自分で死のうとする細胞からできている腫瘍は良性だ。がんではないよ」 「じゃあ、死にたいと思っているから、がんになったわけじゃないんですか」 「うん。がん細胞は、人間が生きている限り、一定の確率で発生するものだよ。あなたが、がんになったのは、死にたいと思ったからではない。ずっと、顕微鏡でがん細胞を見てきたから、どんなのががん細胞なのかはよく知っている。だけど、あなたは、どこもがん細胞に似ていないよ」 若者はこれを聞いて少し笑った。 「そりゃそうですよ。だって、僕は細胞じゃなくて、人間なんだもの」 「うん、そうだね。でも、長い間、顕微鏡で細胞を見ていると、だんだん、こう思うようになるんだ。 がん細胞の振る舞いは、人間のすることに似ている。がん細胞に起こることは、人生にも起こる、ってね」 がん細胞がどのくらい悪質かは、風貌だけでは分からない。人間の場合でも、不良かどうかは風貌で分かることが多いですが、どのくらい悪質なのかは、見た目だけでは分からないことがあります。こうした点も、がん細胞と人間は似ていると思うのです。 へーえ。若者は不思議な言葉を聞いたような顔をした。が、ふいに、彼は元の精気のない顔に戻る。 「死にたいと思うことががん細胞と似ていないとしても、やっぱり、僕はがん細胞と同じ立場だと思うんです。だって、がん細胞も僕も、全然役に立たないから。