「僕みたいな役立たずは死んだ方がいい」胃がんになった20歳の浪人生を救った「医師の言葉」に涙が止まらない
それを察したのだろう、先生が言った。 「趣味があると、つらいときに、生きやすくなるから」 「先生、そんなことじゃなくて、治療をする気になるよう説得してほしいって、さっきから申し上げてるじゃありませんか!」 イラ立ちを爆発させる母親。 だが、先生は、たわいのない日常のことをいくつか若者に尋ねただけ。 そこから分かってきたのは、若者の引きこもりに近い生活だった。 父親の期待していた有名大学法学部への進学に2年続けて失敗したこと、親の期待を裏切り続けてきた彼は無気力になっていること、ノイローゼで心療内科を受診したこともあること。 母親が渋々という様子で、控えめに明かしたらしい彼の日常生活からは、こうしたことがうかがい知れたのだった。 身内の恥を暴かれたとでも思ったからか、母親がこうつぶやいた。 「こんなところ、来るんじゃなかった」 これを捨て台詞のように残して、母子はその日、帰っていった。 ● 「死にたい」と話す若者を 説得する糸口をつかむ あの面談で、あの若者に「趣味はあるのか」と問いかけたのは、彼がおそらく家族との人間関係に苦しんでいて、深く傷ついていると思ったからです。 そこから、少しでも心を離れさせたかったのです。 それから2週間後、都心で行われたがん哲学外来に遠山君がまたやって来た。今度は母親はおらず1人だった。 面談が始まると、彼は唐突にこう言った。 「僕なんかに、がんの治療をするのは無駄だと思うんです。役立たずだから」 「誰かが、あなたにそう言ったの?」 「……お父さんが」 大手銀行の役員を務めている父親はいつも忙しく、ほとんど家にいない。ところが、昨夜は珍しくまだ早い時間に帰ってくると、彼のことを激しく罵倒したという。 彼は「役立たず」と言われ、あまりのつらさに「死にたい」と漏らすと、 「何を甘ったれてるんだ。死にたいんなら勝手に死ねばいい。生きたくても生きられない人間がたくさんいるのに、生きられる人間が生きようとしないなんて、ゼイタクを言うんじゃない。生きてくれなくて結構だ」 激怒した父親に、こう怒鳴られたそうだ。