V13具志堅超えに失敗した山中はタオル投入の暴走がなければ勝てていたのか
試合後、ネリは右目の下を腫らし、右のわき腹を押さえていた。 「こんなタフな試合はなかった。山中のジャブは強かった。左ストレートを何発かもらい調子を崩した。俺の回復は早かったが、右のレバーを打たれて、今も痛いんだ」 1ラウンドは山中のジャブが効果的だった。“神の左”へつなげる布石は上々で、山中自身も「ジャブも思ったより遠くなくて、自分の距離でしっかりと当てて、いいリズムでできたと思う」と、手ごたえを感じていた。浅かったが2ラウンドの終わりと3ラウンドのはじめには左がヒットしていた。 「入ってくるところに狙いやすかったし、自分の感覚としては左のタイミング自体は合っていた。当てるチャンスもあった」 元3階級王者の長谷川穂積氏は、「紙一重の勝負だった。明日の夜もう一度両者が戦えばどうなるかわからない」と語った。 試合は噛み合っていただけに“神の左”が一発当たっての逆転の可能性はゼロではなかっただろう。 その山中の体感とは裏腹に、ネリの山中対策の最悪シナリオに完全に嵌められていた一面も否定できない。 左をスウェーで数センチ芯を外され、その打ち終わりのガードが甘くなる瞬間を狙って左フックを痛打された。山中がパンチを合わせられることを嫌って、少し受けに回ると、サウスポースタイルから、鋭いステップインで、右から左へつなげるコンビネーションブローを勇気を持って浴びせてきた。ネリのスイング系のパンチが山中を苦しめたのである。 「山中の左ストレートをかわすことに成功した。そしてずっとプレッシャーをかけ続けることを心がけた。シビアな戦いになることはわかっていた。敵地だからKOで決着しなければならないと思っていた。3ラウンドから山中のパンチが読めてきた」 22歳の無敗のメキシカンのスピードとラッシュ力に圧倒された。 3ラウンドまでのジャッジは2人が29-28でネリを支持していた。 過去、12度の防衛で、事実上の団体統一戦だったモレノとの2度の試合は苦しんだが、これほどまでに挑戦者に支配を許した試合はなかった。 山中は「もっと足を使い続けていれば」と反省したが、セコンドの暴走がなくとも、ラウンドを重ねる度に、更に傷口を広げていた可能性も低くはない。 ネリは、セコンドの暴走が問題となった4ラウンドにTKOシーンについても、「セコンドが止めたとは思っていない。応戦してこなくなったし、レフェリーが止めたと思っていた」と振り返った。 山中のおかげで37年ぶりに大記録が注目を浴びることになった具志堅用高氏は解説席にいた。 「早い勝負になったねえ。ネリには、力強さと勢いとパワーがあった。山中君はいい左が2発入ったが、ネリはタフだったね。遠い距離から大きく打ってくるので、あれではカウンターを打つのが難しい。山中君には、記録からくる固さやプレッシャーは感じられなかったけれど、いつものパンチを打てなかった」 そう試合を分析した。 件のストップの是非については、「セコンドの判断だから」と踏み込まなかったが、「あの重いパンチでダウンしなかったんだから最高のコンディションでリングに上がっていた」という感想を口にした。 激励のため試合前に控え室を訪れると、山中はレジェンドに「しっかりと(記録に並ぶ瞬間を)見ていて下さい」と伝えたという。 「若い人に記録を抜いてもらいたいと期待していた。ぜひ勝って欲しかったのだが……。京都で始まって京都に散ることになるとはね。僕も故郷の沖縄で終わったんだけどね」