『虎に翼』開始2カ月とは思えない濃密さ 吉田恵里香によって濃密に描かれた寅子の“幼年期”
『カムカムエヴリバディ』のオマージュのようにも見えた『虎に翼』第45話
焼き鳥屋を営む女性を演じた俳優は在日三世。寅子の大切な同志・ヒャンちゃんこと香淑(ハ・ヨンス)も韓国人である。日本と異国の人たちとの関わりも考えるべきことのひとつであり、真の平等への課題は少なくない。 また、寅子と優三ふたりのシーンに、イギリス人による英語ボーカル曲「You are so amazing」がかかったことも印象的だ。英語の曲も日本語の曲も関係なく扱うことには、過去作『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期)でヒロイン・安子(上白石萌音)の恋人・稔(松村北斗)が語った「どこの国とも自由に行き来できる。どこの国の音楽でも自由に聴ける。僕らの子供にゃあ、そんな世界を生きてほしい」という願いにも通じるものではないかと感じた。 ほかのドラマを例に出すことを好まないかたもいると思うがゆるしてほしい。この回(第45話)は、『カムカム』のオマージュのようにも筆者には見えた。最後にタイトルバックをもってくる構成も『カムカム』の第8話でやっている。もっと遡れば『エール』(2020年度前期)の第1話でタイトルバックが出たのは開始13分後(ほぼ終わりの頃)である。朝ドラはシリーズなので、過去作をリスペクトしながらアップデートが繰り返されているのだ。一作一作自立しながら、大きな「朝ドラ」という運動体を成しているともいえるだろう。 『虎に翼』でタイトルバックが最後に来たことの『虎に翼』ならではの意義はと考えると、米津玄師の歌詞ーー「いつのまにか花が落ちた」「誰かが私に嘘をついた」などが、いつのまにか優三さんが死んでいた。お父さんが私に嘘をついた。という状況と重なって、いろいろな悔しさ悲しさを背負いながら寅子が幸福に生き抜く力を欲していることとますます密につながって聞こえた。 寅子の子供時代を書かなかった『虎に翼』だが、法を学んで、優三との会話から法とは何かという考えも豊かになった寅子の幼年期がここでようやく終わって、大人の社会人として社会と対峙していくことになるのだろう。タイトルバックの位置によってここまでがまるでアヴァンのようにも見える。放送からまだ2カ月しか経ってないとは思えないほど濃密な2カ月だった。あと4カ月、この調子でいったら体感1年間になりそうだ。
木俣冬