旧東ドイツの混乱は続く:保守中道「CDU」と極左「BSW」は連立するのか?
親ロシアの極左政党BSWと組むべきか
CDUにとっては、もう一つ厄介な問題がある。CDUの党本部は、AfDだけではなく、極左政党リンケ(左翼党)との連立も禁じている。リンケは、社会主義時代の東ドイツの政権党(SED)の流れを汲む政党で、2007年の結党時から2014年まで連邦憲法擁護庁から監視されていた。その理由は、「ドイツの憲法を敵視する傾向を見せている」ということだった。 親ロシア色が強い極左ポピュリスト政党BSWのヴァーゲンクネヒト党首は、リンケで副党首や連邦議会での院内総務を務めた。リンケの前身である民主社会主義党(PDS)では、共産主義プラットフォーム(KPF)という会派に属した。KPFは、連邦憲法擁護庁から「過激団体」に指定されていた。 このためCDU内部では、「連立が禁止されているリンケを母体とするBSWと連立するのは、我が党の保守中道路線に反する」という声が出ている。CDUで外交問題を担当するロデリヒ・キーゼヴェッター連邦議会議員は、「BSWは、クレムリンの回し者だ。CDUがテューリンゲン州政府に参加するために、このような党と組んで党の路線を犠牲にするのは、誤りだ」と述べ、メルツ党首の方針を批判している。彼は「CDUは無理にテューリンゲン州で政権に参加するべきではない。市民が望んでいるのならば、AfDに政権を担当させればいいではないか」と語っている。 前のアンゲラ・メルケル政権がリンケとの連立を禁止したのは、2018年。当時は、極右だけではなく極左ポピュリスト政党にも現在ほど票が集まる事態は予想されていなかった。ドイツの政界では特定との政党との連立禁止を防火壁(Brandmauer)と呼ぶ。あまり多くの防火壁を建てると、連立できる党の数が減り、自分の首を絞めることになる。
ウクライナ軍事支援に反対するBSW
もう一つ問題となる分野は、安全保障だ。ヴァーゲンクネヒト党首はこれまで「ウクライナへの武器供与や、米国の中距離ミサイルのドイツへの配備に賛成する政党とは連立しない」と発言してきた。ショルツ政権は今年、「米軍は2026年からトマホーク巡航ミサイルなどをドイツに配備する」と発表した。ロシアからの脅威の高まりに対抗するためである。 ヴァーゲンクネヒト党首は、ウクライナへの武器供与に強く反対し、一刻も早く和平交渉を開始することで、ロシア・ウクライナ戦争の停戦を目指すとしている。だがロシアがウクライナを侵略していることや、ロシア軍によるウクライナ市民への無差別攻撃については、全く非難しない。 現在ドイツ市民の間では、「ロシア・ウクライナ戦争はいつまで続くのか」、「ロシア・ウクライナ戦争は、北大西洋条約機構(NATO)とロシアの間の戦争に発展するのではないか」という不安感が強まっている。BSWが今年1月に結党してからわずか8カ月で、テューリンゲン州議会選挙で15.8%もの得票率を確保した裏には、ショルツ政権に対する不満とともに、ヴァーゲンクネヒト党首の平和路線への支持もある。 ヴァーゲンクネヒト党首は、「中距離核ミサイルのドイツ配備は、ロシアとの核戦争の危険を高める」として反対している。同氏は、ロシアのメディアでは極めて評判が良い。 一方のCDUは、緑の党と並んで、ロシアのウクライナ侵攻を最も強く批判し、ゼレンスキー政権への武器供与を最も積極的に支持する政党である。同党は、「ロシアの脅威に対抗するために、中距離ミサイルのドイツ配備は当然だ」という態度を取っている。CDUのフリードリヒ・メルツ党首は9月21日付のフランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)紙とのインタビューで、「テューリンゲン州とザクセン州での連立交渉では、我々をロシアの走狗にし、北大西洋条約機構(NATO)や米国との連携を危険にさらすような合意を行ってはならない。これらはドイツの国是に関わる問題であり、絶対に越えてはならない一線だ」と釘を刺した。 ヴァーゲンクネヒト党首は、CDUの妥協を引き出すために、AfDとの連立の可能性を今後ちらつかせるかもしれない。BSWとAfDの政策の間には、難民受け入れ数の大幅削減や、環境保護重視路線への反対など、共通点もある。BSWを「極左のAfD」と呼ぶジャーナリストもいる。 CDUは、党の方針をまげて、ヴァーゲンクネヒト党首の親ロシア主義に目をつぶるのか。極右政党の州政府参加という前代未聞の事態を防ぐためとはいえ、この妥協はCDUにとって「副作用の強い薬」になる可能性がある。テューリンゲン州で新しい首相が選ばれるまでの交渉は、相当難航することが予想される。