中国の反スパイ法が施行10年 「国家安全」優先の不透明な運用 中学校でも密告呼び掛け
【北京=三塚聖平】中国でスパイ行為を取り締まる「反スパイ法」が施行されて1日で10年となった。摘発の対象となる行為が曖昧なため不透明な運用を懸念する声が後を絶たないが、昨年7月にはスパイ行為の定義を拡大した改正法を施行するなど、「国家安全」を優先して外国人らを取り締まる姿勢を鮮明にしている。 【118社企業アンケート】改正反スパイ法施行に対する受け止めは? ■「何したら違反か不明確」 10月30日、中国・天津の中学校で施行10年を控えた反スパイ法の宣伝活動が行われた。地元紙によると、中学生に対して「学生の皆さん、国家安全を守るのは一人一人の責任です」と呼び掛け、スパイ行為を見つけたら密告するようにアピールした。 反スパイ法は2014年11月1日に施行された。23年7月には改正法を施行し、従来の「国家機密」に加えて「国家の安全や利益に関わる文書やデータ、資料、物品」も取り締まり対象とした。「国家安全」の定義も具体的には示されておらず、日中関係筋は「当初から透明化を求め続けてきたが、何をしたら違反になるかが明確ではない状況は変わっていない」と疑問視する。 中国共産党指導部は「国家安全」を優先させる姿勢を強めている。今年7月に開催した重要会議、第20期中央委員会第3回総会(3中総会)では「国家安全は中国式現代化を安定的、長期的に推進する重要な基盤だ」と強調した。 今年5月には「改正国家秘密保護法」も施行し、国家機密に関して共産党の指導と関連部門の権限を強化し、海外への流出防止を徹底することを定めた。中国でスパイ摘発を担う国家安全省は昨年夏、中国の通信アプリ、微信(ウィーチャット)に開設した公式アカウントで国民に積極的な通報を奨励している。 ■相次ぐ外国人摘発 外国人の摘発も少なくない。今年10月末にはスパイ容疑で韓国人が逮捕されたことが明らかになった。昨年には米国籍の男性がスパイ罪で無期懲役の判決を言い渡されている。 日本人では、昨年3月にアステラス製薬の日本人男性社員が拘束され、今年8月に起訴されている。反スパイ法の施行後に少なくとも17人の邦人が拘束され、現在も5人が中国国内に留め置かれている。 長年にわたり日中交流に携わる男性は、拘束リスクを懸念して訪中を警戒する有識者らが少なくないと指摘。「(中国側は)自ら交流の基盤を壊している」として、交流の停滞が日中関係の悪化につながっていると懸念する。