<甲子園交流試合・2020センバツ32校>全員出るまで負けられない 明石商、兵庫独自大会で結束
新型コロナウイルスの影響で春のセンバツ、夏の選手権大会が中止となる中、各地で行われた地方独自大会では、地域や学校の実情に応じてさまざまなチャレンジが行われた。実力本位でメンバーを編成し優勝を目指したチーム、3年生に締めくくりの「高校野球」を経験させようと配慮したチーム――。各校試行錯誤の中で、明石商(兵庫)は一選手のある選択でチームが結束、2020年甲子園高校野球交流試合第5日第1試合に挑む。 【真夏の熱闘】交流試合の写真特集はこちら 「3年生は全員出す」。交流試合の組み合わせ抽選があった7月8日夜、ミーティングで狭間善徳監督(56)は独自大会に臨むプランも披露した。今回の兵庫独自大会では20人の登録メンバーを試合ごとに変更できる特例ルールが設けられ、運用次第では3年生だけで39人いる大所帯の同校でも「3年生全員ベンチ入り」の可能性が開けていた。狭間監督は「独自大会の先に甲子園はない。3年生全員を出すことを目標に頑張ろう」と呼びかけた。目標を失いかけた部員らを鼓舞するためだった。 兵庫県の独自大会は、新型コロナウイルスの影響や授業時間なども考慮し、決勝までは行わず、5回戦まで。どの試合に出場するかは公式戦未経験の3年生へのアンケートで希望を募って決めた。唯一最終戦の5回戦を希望したのが下山峻平選手(3年)。小学校の同級生と対戦の可能性があったため5回戦を選んだが、結果としてチームが5回戦まで勝ち上がらなければ全員出場の目標は達成できないことになった。 下山選手は兵庫県尼崎市出身。「日本一になりたい」と明石商を選んだ。しかし、レギュラー候補の1班に入れず、2班で室内練習やウエートトレーニングに励む日々。それでも腐らずに取り組む姿に仲間たちの人望が集まる。「おそろしい練習」と部員が口をそろえる冬場の階段上り。目標設定された1分20秒で10往復する選手が多いが、下山選手はいつも10秒は早くやり終える。「そんなやつは下山くらい」。公認会計士を目指し、高校で取得できる簿記1級など五つの試験にパス。勉強も手を抜かない姿をみんなが知る。 ◇初の公式戦、4番で起用 そんな下山選手の人柄もあって「全員出場」の目標は、次第に「下山を出すまで負けられん」との思いに変わり、チームは一つになった。見事5回戦まで勝ち上がり、下山選手は初めての背番号「14」を手にした。そして、スタメン発表では打順「4番」と監督からのサプライズ。初打席は空振り三振。2打席ノーヒットで試合も4―5に終わったが、一丸となって目標を達成したチームは交流試合に向けて士気を高めた。 今度はチームの全力を懸けて戦う一発勝負。下山選手は「相手を圧倒して勝ってほしい」と仲間たちの活躍を願っている。【中田敦子、写真も】