デコトラに付いてる兵器のような筒って何? その名も「バスロケット」の正体とは
レトロタイプのデコトラが搭載する「バスロケット」
車両を派手に飾って楽しむデコレーショントラック(デコトラ、アートトラック)のなかには、荷台の上部に細長い楕円柱(円柱・四角柱のものもある)の筒を搭載していることがある。これはレトロタイプのデコトラに見られるパーツで、「バスロケット」と呼ばれているものだ。デコレーションパーツにはバス由来のものが多くあり、これ以外で有名なのはキャビン正面に飾る「バスマーク(バスマークアンドン)」だろう。いずれも、見た目のカッコよさが支持される由縁であり、嗜好品であるから理屈で説明のできるものではない。 【画像】バスロケットのそのほかの画像を見る いまではこの「バスロケット」が、本家であるバスに搭載されているのを目にすることはほとんどない。バスの世界では、すでに過去のものになっているのだ。初めてこれを採用したのは「はとバス」で、1971年ごろのことだといわれている。その後、観光バス各社で取り入れられていったが、路線バスでは搭載されることがなかった。 このパーツの正体は、クーラーのダクトである。バスをはじめ自動車全般の空調は暖房と冷房が全く違うシステムで稼働(電気自動車は共通システム)しており、暖房はエンジンの排熱を利用している。冷房はエンジンでコンプレッサーを回し、冷媒ガスを圧縮したあと熱交換を行うことで冷気を生み出す。ちなみにバスの場合、コンプレッサーを回すエンジンは走行用のものを使う場合(機関直結式冷房装置)と、サブエンジンに頼る場合(独立機関式冷房装置)があった。これは走行用エンジンにかかる負担の問題であったため、高出力エンジンが主流となってからは機関直結式冷房装置が主流になっている。
機能を持たない「バスロケット」も存在した
冷気は室内に送られるのだが、その性質上、上部から送風をする必要がある。そこで天井部に冷気送風用のダクトが必要になったのだ。しかし、室内にそれを配するとその分天井が低くなる。そこでダクトの配管を屋根の上に持っていくことで、天高を確保して室内の居住性を高めたのだ。この措置が必要だったのは、同じ客が乗車して長距離を走る観光バス・高速バスに限られ、頻繁に乗客が入れ替わる路線バスには必要がなかったのである。 「バスロケット」という名称は、見た目からつけられたという。観光バス・高速バスで各社が採用したのは、そのデザイン性の高さにも理由があるのだ。車両のカッコよさは、バスの魅力となって集客につながるからである。ゆえに、はとバスに続いて他社が採用した「バスロケット」のなかには、クーラーダクトとしての機能を持たない飾りだけのものもあった。形状も長い(はとバスのものはバスの全長に匹敵)楕円柱状のものとは限らず、短いタイプ(バス全長の3分の1以下)や大きさがマーカーランプ程度のもののほか、四角柱に文字飾りを入れたモデルが登場するなど、デザイン性を重視する傾向が強くなっていった。 現在、本家のバスで「バスロケット」が見られなくなったのは、外観デザインの流行変化という面もあるのだろうが、ダブルデッカーやハイデッカーが登場したことで、室内高の確保が必要になったことも大きい。 とはいえ、昭和レトロな雰囲気を持つ「バスロケット」に、ノスタルジックな想いを持つ人は少なくない。アートを楽しむトラックドライバーの間で支持されているのも、納得できるパーツだといえるのではないだろうか。
トラック魂編集部