「Amazon Q」をはじめとする生成AIサービスのアップデートをAWSが説明
アマゾン ウェブ サービス ジャパンは、生成AIサービスのアップデートに関する説明会を開催、生成AIアシスタント「Amazon Q」シリーズおよび生成AIアプリケーションの構築基盤である「Amazon Bedrock」の拡張について紹介された。 【もっと写真を見る】
アマゾン ウェブ サービス ジャパンは、2024年5月16日、生成AIサービスのアップデートに関する説明会を開催した。 同説明会では、4月30日(米国時間)に一般提供が開始された生成AIアシスタント「Amazon Q」シリーズおよび、4月23日(米国時間)に発表された生成AIアプリケーションの構築基盤である「Amazon Bedrock」の拡張について紹介された。 同社のサービス&テクノロジー事業統括本部 技術本部長である小林正人氏は、「現状、生成AIは『モデル』に注目が集まりがちだが、消費者が直接触れる『アプリケーション』が大切。生成AIを組み込んだアプリケーションが、新しい体験や生産性向上、新たな洞察などの価値を生み出すことが、生成AI活用の構図」と述べた。 生成AI実装の各アプローチに対応した三層の生成AIサービス 小林氏は、生成AI活用における“データ”の重要性を強調する。大量のデータが基盤モデルの構築に必要なだけではなく、企業の高度な課題を解決するためのアプリケーションにおいては、業務、業界に特化した独自のデータを、標準的な基盤モデルに付け足す必要がある。 Amazonも社内のデータと生成AI技術を重ね合わせたイノベーションを進めており、Amazon.comでは、カスタマーレビューに最適化された要約機能を展開、買い物アドバイザーの「Rufus」では、蓄積されたデータに基づき、対話形式で商品を勧めてくれる。またAlexaも、単に応答するだけではなく、ユーザーの買い物履歴などに基づいて指示をこなすようになっている。 独自データを生成AIと組み合わせる手法としては、与えるデータや目的に応じて、「RAG」の実装や、基盤モデルの「ファインチューニング」、「事前トレーニング」など、複数のアプローチがある。「AWSは、各アプローチを必要とした際に、すぐに実装できるようサービスの拡充を進めている」と小林氏。 AWSの生成AIサービスは、三層構造で展開されている。一番下のレイヤーは、基盤モデルを一から構築するためのインフラストラクチャーのサービス群。真ん中のレイヤーは、Amazon Bedrockを中核とした、既存モデルのまま、もしくはカスタマイズしてアプリケーションを構築するためのサービス群。そして、一番上のレイヤーが、生成AIを組み込んだ完成されたアプリケーションであり、「Amazon Q」シリーズが該当する。 小林氏は、「重要なのは、消費者に対して何を提供するかを見据えること。ゴールが定まると現実な方法論も定まり、既に完成しているソリューションを利用する、基盤モデルをカスタマイズするなど、どのアプローチを選択するかが判断できる。AWSでは、その選択肢を用意することを重視している」と説明する。 生成AIアシスタント「Amazon Q」は、ビジネス・開発者・データ担当者向けに展開 ここからは生成AIアシスタントであるAmazon Qシリーズについて説明された。一般提供が開始されたAmazon Qだが、現時点では英語のみの対応となっている。 「Amazon Q Business」は、社内に蓄積されたデータや情報を基に、タスクを実行する生成AIアシスタントだ。40を超えるビジネスツールと接続し、統合されたデータソースを横断的に処理、アクセス権限に応じたパーソナライズされた応答を返す。 Amazon Q Business Lite(月額ユーザーあたり3ドル)と、Amazon Q Business Pro(月額ユーザーあたり20ドル)の2種類のサブスクリプションが用意される。 また、Amazon Q Business Proの一部として、「Amazon Q Apps」のプレビュー版を開始した。独自データを利用する生成AIアプリケーションを、コーディング不要で構築できる機能だ。Amazon Q Businessによって解決に至った会話を基にして、課題解決を“再現”するアプリケーションを作成できる。 統合BIサービスである「Amazon QuickSight」においても、Amazon Qを連携させた「Amazon Q in QuickSight」が提供される。自然言語を介してBIダッシュボードを作成でき、データに基づくインサイトやサマリーまで自動生成してくれる。 開発者向けには「Amazon Q Developer」が提供される。開発ライフサイクル全体を支援する生成AIアシスタントとなり、コーディングレコメンド機能や、機能実装やソフトウェアバージョンアップなどを自律的に実行するエージェント、脆弱性を検知して改善案を提案してくれる機能などによって、負荷の高い、煩雑な作業を削減できる。 無償版の「Amazon Q Developer Free Tier」と月額ユーザーあたり19ドルとなる「Amazon Q Developer Pro Tier」の2種類のライセンスが用意され、無償版では主に月間利用回数に制限がかかる。 その他、AWS Glueで実行できるデータ統合パイプラインを、自然言語を介して構築できる「Amazon Q Data Integration in AWS Glue」も一般提供を開始している。 「Amazon Bedrock」はモデルを拡充、RAG実装やガードレール機能も東京リージョンに対応 続いて紹介されたのは、生成AIを組み込んだアプリケーションやシステムを構築するための基盤であるAmazon Bedrockの拡張だ。 小林氏は、Amazon Bedrockについて、「これまでも幅広いモデルを利用できることを強調してきたが、これはすなわち、より良いモデルが登場した時に乗り換えるのが容易であるということ。統一されたAPIによって、モデルが変わってもアプリケーションの書き換えが最小限に抑えられる」と説明する。 選択できるモデルは順調に増え続けており、Amazon製の基盤モデル「Amazon Titan」を含む、以下のモデルに新たに対応している。それぞれ現時点では米国リージョンの一部のみで対応している。 ・Amazon Titan:Amazon Titan Image Generator(画像生成モデル)、Amazon Titan Text Embeddings V2(埋め込みモデルの新バージョン)、Amazon Titan Text Premier(RAGとエージェントに最適化されたテキストモデル) ・Anthropic:Claude 3 Haiku、Claude 3 Sonnet、Claude 3 Opus ・Cohere:Command R、Command R+ ・Meta:Llama 3 8B、Llama 3 70B ユーザーがカスタマイズしたモデルをインポートして、他のモデル同様にあつかえる「カスタムモデルインポート」機能も、米国リージョンの一部でプレビューを開始している。LlamaやMistral、Flan T5などのモデルアーキテクチャーに対応しており、利用料金はオンデマンドモードが適用される。 ユースケースに最適なモデルを選択するための、各指標に基づいてモデルを自動テストする「モデル評価機能」も、米国リージョンの一部で一般提供されている。 企業データを活用した生成AIアプリケーションの構築を支援する機能も、順次、東京リージョンへの対応が進んでいる。 ひとつめは、RAGの実装を実現する「Knowledge bases for Amazon Bedrock」の東京リージョン対応だ。企業内のデータをベクトルデータベースに格納して、リクエストに応じた情報を取得するという、データの蓄積から問い合わせまでをフルマネージドサービスとして提供する。 複数ステップから構成されるタスクを実行する生成AIエージェントを作成できる「Agents for Amazon Bedrock」も東京リージョンに対応した。ユーザーからのタスクを作業ステップに分解し、APIを介して社内システムやデータソースと連携しながら、順序立ててタスクを実行する。 生成AIの利用にガードレールを設ける「Guardrails for Amazon Bedrock」は、一般提供の開始とあわせて東京リージョンに対応した。責任あるAI利用のために、モデルに依存せず、追加のフィルタリングを適用できる機能だ。ユースケースに応じて、不適切な単語や有害なコンテンツ、機密情報や個人情報をブロックできる。現時点では英語対応のみの展開となる。 生成AIのサンプルアプリケーションをGitHubで公開中 AWS日本チームは、企業の生成AIアプリケーション構築の参考になるように、「Generative AI Use Case JP」というサンプルアプリケーションをGitHub上で公開している。AWSアカウントがあればサービスの利用料のみで利用可能だ。 その他、生成AI導入の戦略立案のたたき台になる「戦略フレームワーク」の提供や、生成AIの適用を体験型で学ぶことができる「ワークショップ」の開催など、テクノロジー以外のサポートサービスも展開している。 文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp