土屋太鳳&佐久間大介が心掛けている人間関係の作り方とは…“出会い”を描く映画『マッチング』で考えたこと
映画『マッチング』(2月23日公開)はマッチングアプリによって増えた“出会い”の裏に仕掛けられた恐怖を描くサスペンススリラー。『ミッドナイトスワン』(20)の内田英治監督が原案、脚本、監督を務め、ノンストップの恐怖に見舞われる主人公の輪花を土屋太鳳、輪花とアプリでマッチングした狂気のストーカーをSnow Manの佐久間大介が演じている。 【写真を見る】“出会い”が手軽になった現代で土屋、佐久間はどのように人間関係を築いているのか…? 同僚のすすめでマッチングアプリに登録した輪花は、マッチングした吐夢との初デートに向かう。しかし、現れたのはプロフィールとは別人のような暗い男。見た目は平凡だが、どこか異様な彼の雰囲気に違和感を覚える輪花。時を同じくして、アプリ婚した利用者をねらった連続殺人事件が起こる。輪花が出会った男、吐夢が捜査線上に浮上するが、事件は意外な方向へと発展。やがて、連続殺人犯の魔の手は輪花にも迫っていく。 他人と気軽に出会えるようになった現代だからこそ起こる恐怖を描きだす本作。“出会い”に手軽さと同時に怖さも感じる時代に、土屋、佐久間はどのように人間関係を築いているのか。役へのアプローチや撮影を通じて考えたことなどを、現場でのやりとりを振り返りながら教えてもらった。 ■「こんなに不幸って起きるものなの?というくらい辛い物語でした」(土屋) ――台本を読んだ時、事態がだんだん悪化していくなか心が折れない輪花に対し土屋さんは「誰にでもこのスイッチはあるかもしれない」と思ったとのことですが、具体的にはどのようなスイッチをイメージしたのでしょうか? 土屋「許せない登場人物もたくさん出てくるし、こんなに不幸って起きるものなの?というくらい辛い物語でした。でも、なぜかどこかわからなくもないというか、現実にありうる物語かもしれないという想いもあり…。いままで参加してきた作品では辛いなかにも小さな光を自分で考えて、感情を立体的に見せたいと思って向き合っていました。でも、今回は辛いことがありすぎて伝えたいこと、見せたいことを忘れてしまうというのか、わからなくなってしまうことがあって。そんな時にでも残るスイッチがあるとしたら“母性”なのかなと思ったんです。守るタイプの優しい母性ではなく、家族や子どもになにかあったらやり返すぞ!という攻撃的な母性。自分の大切なものを傷つけられたら、なにをしでかすかわからない、そういうスイッチをイメージしました」 ――佐久間さんは、吐夢は自分とは真逆のキャラクターと感じたそうですが、彼の第一印象は? 佐久間「第一印象はサイコパスなのかなと思いました。あまり多くを語らない人間でおしゃべりの僕とは全然違います。吐夢のバックボーンを掘り下げていく時にわからないことも結構あって、内田監督といろいろ話し合ってキャラクターを作り上げていきました。吐夢について感じたことをたくさん話したいけれど、ネタバレになるから説明が難しい(笑)!でも、実は僕、子どものころはすごく静かな子だったので、自分のなかでリンクする部分もありました」 ■「作っている時のほうが混沌としていた気がします」(佐久間) ――作品全体に関してはどのように感じましたか? 土屋「台本を読んだ時、演じている時、出来上がったものを観ている時とその都度印象が全然違っていて…」 佐久間「わかるー!」 土屋「出来上がったものを観て感じたことが一番シンプルだったというか、意外にスッと作品が入ってきたというのかな。例えば、映画とか漫画とか、作品のなかでは手術のシーンってすごく複雑で大変な感じに描かれるじゃないですか。でも、お医者さんによると実際の手術は意外とシンプルらしくて。その感覚に近い気がしました。やっている時は辛すぎるし、目の前のことを乗り越えることに必死。だけど編集されて1本の映画になったらシンプルで受け入れやすく感じて。辛いことばかり起きるし、許せない人もたくさん出てくるから、撮影中も物語に反抗している自分がいたけれど、意外とシンプルに楽しんでもらえる作品になっていると思います」 佐久間「僕もやっている時のほうが頭のなかがごちゃごちゃしていました。吐夢のことばかり考えていたし、わからなくなることも多かったけれど、出来上がった作品を観たら、めちゃめちゃわかりやすくなっていて。台本では想像できなかったこと、自分が出ていないシーンとのつながりを見て納得したり。作っている時のほうが混沌としていた気がします」 土屋「確かに。でも、そんなものですよね。やっている時のほうが辛いっていうのかな」 佐久間「演じながらごちゃごちゃしている自分とはまた違う“濁り”が作品に出ていて良かったなと思います。演じる側としても観る側としても楽しめました。僕的にはやさぐれている太鳳ちゃんのお芝居が新鮮でした。仕事場で休憩に入って『あー、だるっ』みたいな感じなどは、これまでの太鳳ちゃんのイメージになかったので、お芝居でしか見られない貴重な部分かなと。同じく居酒屋のシーンとかもすごくいいよね?」 土屋「仕事終わりにお父さんと居酒屋で待ち合わせするシーンですね。輪花は自分が遅刻しているのに、だるそうにお店に入ってきて席につき、一息ついてから『お待たせ』って言うんだけど、私のなかでは『お待たせ=待たせてごめん』だから、どうしても焦っちゃう。だけど輪花は『こっちは疲れてるのにそれでも来ているんだから』という思いがベースにあるので『お待たせ』の言い方も、タイミングも変わってきて。そういう考え方や親との関係性もあるのか、おもしろいなと思いながら演じました」 佐久間「『お待たせ』の言い方からも『輪花ってこういう人』とわかりやすいシーンで印象に残っています」 ■「佐久間さんの切り替え、メリハリは本当にすごいなと思いました」(土屋) ――ほかに撮影現場で印象に残っていることはありますか? 佐久間「太鳳ちゃんに『吐夢、めちゃめちゃ怖いです』ってたくさん言われました(笑)」 土屋「光の無い虚ろな目がブラックホールだったんです!」 佐久間「監督に『心と目には常に“空白”を持っているように』と言われていて。最初は空白を持つってどういうことだろうと思ったけれど、感情が通るところに空白があるという感覚かなと考えて。空白を経由してセリフが出る感じを意識していました」 土屋「吐夢として向き合うとめちゃくちゃ怖いけれど、カメラが回っていなくて佐久間さんとしている時はとにかく明るくて。その切り替え、メリハリは本当にすごいなと思いました。舞台やライブでメリハリを持ってやってきたからこそなんだろうなって。できることはやりますという姿勢にも感動していました」 佐久間「僕が驚いたのは、監督からの『もっと自分のことを出して』というリクエストに太鳳ちゃんが『すみません、ちょっと自分がわからなくなってきました』となっていたこと。いままでやってきたものとはまた別の表現を求められて、それに真剣に向き合っていて…。太鳳ちゃんでもまだやったことのないものがあることにも驚いて、印象に残っています」 土屋「私は演じる時に自分を入れないほうがやりやすいタイプ。だから自分を出してと言われて、自分ってなんだ?と思ってしまって(笑)」 佐久間「あるよね。でも実際に次のシーンではしっかり監督のリクエスト通りの輪花がいて。プロとしての姿勢とプライドを見てかっこいいって思ってました」 ■「自分にできないことをできる人は尊敬できる」(佐久間) ――映画でも描かれているように、人間関係の作り方に怖さもある時代です。ご自身の人間関係の作り方について教えてください。 佐久間「僕は子どものころは人嫌いでした」 土屋「え?全然見えない…」 佐久間「いまとはだいぶ違っていて(笑)。自分以外はみんな嫌いな子どもで、なんなら親も嫌いでした。自分以外が自分の伝えたいことを理解してくれるとも思ってなくて、諦めていたというのかな。人に期待をしていない子どもでした。でもいまは真逆で人が大好き。誰にでも話しかけちゃうし、人に壁を作らなくなりました。現場で知り合う人たちの仕事も気になるし、どんな人なのかも気になって話しかけちゃうんですよね」 土屋「知りたいって、すてきな考え方だと思います。みんなそうなってくれたらいいなって思います」 佐久間「そのほうが楽だよね。変に気を遣うとか距離を取るのもめんどくさいから、基本はオープンになりました。誰を信用していいのかわからない輪花も大変そうだったけれど、太鳳ちゃんはどういうタイプなら信用できる?」 土屋「波がない人かな。佐久間さん、波、ないですよね?」 佐久間「常に高波だけどね(笑)」 土屋「でもそれって、波があることを知っている人だから波を作らないことができるのだと思います。自分が波を作ること、アップダウンすることを許している人はあまり近づきたくないかな…」 佐久間「変に気を遣うのも嫌だよね。え?今日はそういう感じなの?みないになるのも僕は嫌かな」 土屋「私は割とフラットでどんな時も素直に意見を言える距離感の友だちが多いです。友だちになりたいのは人を大切にしようとする人。苦手なのは“心配”という言葉を使って人の噂話をするタイプです」 佐久間「いるね!」 土屋「そういう言葉を聞いた瞬間に『ありがとうございました!』って距離を置きます」 佐久間「僕はあまり人を嫌いにならないけれど、唯一嫌いになるのは友だちの悪口を言う人。『アイツ変わってるよね』みたいに言われたら、個性じゃん!逆におもしろくていいって思っちゃうし」 土屋「じゃあ、個性がある人には近づきたくなる?」 佐久間「『なんかすげえ!』って思ったらすぐ友だちになりたくなる。自分にできないことをできる人は尊敬できるから」 土屋「壁を作らず、興味を持ったら話しかけて友だちになるっていう姿勢、最高です」 佐久間「太鳳ちゃんの判断基準は?」 土屋「勘かな。尊敬できるとかこういう気遣い好きだなと感じたら『連絡先教えてください!』ってなります。勘って大事だし、かなりハズさない自信はあります。わかっちゃいますよね、なんとなく」 佐久間「危ないなというのもわかる。もうこれは感覚でしかないけれど」 土屋「違っていたかもと思ったら静かに会わないようにしていくだけ(笑)」 佐久間「僕は誰にでも話しかけるし仲良くなるけれど、連絡先の交換は本当に信頼できるってわかった人だけ。その人のことを知ってからって感じかな。人によってタイミングとかって違ってきたりするしね」 取材・文/タナカシノブ