「イノサン」「#DRCL」の坂本眞一が『デューン』の世界を表現!「アイデアの宝庫。『デューン』のデザインはすごく刺激になります」
世界中で今年最大のヒットを記録している超大作『デューン 砂の惑星PART2』がついに公開。全宇宙の命運をかけた戦いのなか、一人の少年が救世主へと成長していく姿を壮大なスケールで描く「デューン」。そんな本作を鑑賞し「ただただ圧倒された」と語るのが、「孤高の人」「イノサン」「イノサン Rougeルージュ」など数々のヒット作で知られ、現在グランドジャンプにて「#DRCL」を連載中の漫画家、坂本眞一。今回はそんな坂本先生とのスペシャルなコラボレーションとして、「デューン」の描き下ろしイラストが到着!合わせて、豪華キャストの共演やドラマチックな展開、そして圧倒的な映像美など「デューン」の魅力を熱く語ってもらった。 【写真を見る】魅惑のクリエイターコラボ。「イノサン」坂本眞一先生が『デューン』の世界観とティモシー・シャラメの魅力を語る! ■「2時間46分があっという間で、むしろ短く感じました」 映画を観終えた坂本は、まず主人公ポールを演じたティモシー・シャラメの成長に驚かされたという。「前作ではガラスのような繊細な演技が際立っていたんですが、今回はそれとは違う力強さを感じました。名だたる名優たちの上に立って演じるという構図も新鮮で、これまでと違う一面を見ることができました」と絶賛する。そして、クライマックスに向かって突き進む波乱の展開にも魅せられたという。「日頃から少年漫画や青年漫画などいろんなジャンルを読んでいますが、展開的にも感情面でも漫画に負けないくらいわかりやすく描かれているので、その世界観にのめり込むことができました。2時間45分があっという間で、むしろ短く感じました」。 本作の舞台は、人類が宇宙に進出して何世紀も経た遠い未来。しかし、劇中に登場する衣装や武具のデザインは史劇のような重厚さを漂わせ、坂本の代表作の一つ「イノサン」にも通じる味わいを持っている。「衣装を含め懐かしさも感じられるデザインが印象的な世界感のなかで、人間の本質的な関わりや確執が展開されています。そういった普遍的な人間ドラマがしっかりと描かれているので、未来のお話ではあるものの、過去にあった話を描いているような不思議な感覚を覚えました。僕の前作『イノサン』でも、そのような世界観で人間ドラマを描いたこともあり、大変おもしろく観ました」と振り返る。 ■「『デューン』はすごく刺激的で、クリエイターとしての気づきも多かった」 また、独特の衣装や色使いにも言及。「本当にアイデアの宝庫でした。ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)の顔面を隠すように垂れ下げた装飾なんかもすてきでしたよね。漫画の世界だと、僕自身もよく『キャラクターの目を大切にしろ』と言われたものですから、どうしても顔をしっかり見せるような表現が多くなってしまい、ああいった思い切ったデザインというのはなかなかできないんですね。だから『デューン』のデザインはすごく刺激になりましたし、『ああ、こういうことをやってもいいんだな』というような、クリエイターとしての気づきもたくさん得ることができました。 美術も一見シンプルでしたが、ディテールまで一分の隙もないようなデザイン。そこに影を落として、黒とシルエットと反射の光で魅せるといった、画面をグッと締めるような演出がされていて、すごく刺激的でした。こだわって作った部分をあえて隠し、観客に想像させるという見せ方に奥行きを感じましたね。そういった、光と闇と衣装で織りなす画面の構成が、すごく美しかったです」とその画作りを称賛した。 映画の中でさりげなく、随所に使われているテクノロジーが「重力中和装置」。一定範囲の重力を打ち消すことで、無重力状態を作りだすことができるものだが、「PART2」の冒頭でも、ポールと敵対するハルコンネン家の兵たちがこれを使い、音も立てず上空を跳ぶ姿が描かれている。「無音のまま岩山に跳ぶシーンの空気感や雰囲気がすばらしかったですね。効果音を使えるのが映画の強みなのに、あえて音を使わずに見せるところがすごい」と指摘した坂本は、それが新たな漫画表現のヒントになるのではないかという。「漫画は音が使えませんが、音を使わなくてもここまで空気感を伝えられるんだと思い知りました」。 ■「一歩引いた世界で物語を展開し、命を際立たせる演出をしている」 本作を監督したのはカナダ出身のドゥニ・ヴィルヌーヴ。SFドラマ『メッセージ』(16)や、伝説的名作の続編『ブレードランナー 2049』(17)など作家性の強い個性派で知られる監督だ。「ヴィルヌーヴ監督の作品はどれも美術がすばらしく、『メッセージ』の表語文字のデザインは自分でも真似したいくらい好きです。先日『ボーはおそれている』を観たのですが、この作品を手掛けたアリ・アスター監督のような、創作意欲や刺激をたくさんもらえるような監督を僕は無意識に追っているように思います」。 こう語る坂本がデザイン以外で感じるヴィルヌーヴ作品の魅力が、独特の生命感だという。「命あるものから一歩引いた世界で物語を展開し、そのことで逆に命を際立たせる演出をされているように感じます。今回の『デューン』に関しては、砂漠を利用して生命感あふれる(砂漠の民)フレメンを描こうとしたのではないでしょうか」。 ■「そろそろ“シャラメくん”は卒業かもしれませんね」 次々と話題作に出演している主演のティモシー・シャラメ。彼の大ファンだと明かす坂本はその魅力を「端正な美しさの容姿と、少年期特有の危うさ」だと語り、シャラメにとって本作はターニングポイントになると感じたという。「『ボーンズ アンド オール』でも未完成な少年の内面を繊細に演じていましたが、今回は力強いアクションも含め、少年というより男性的に感じました。そろそろ“シャラメくん”という、くん付けは卒業かなって。今作で彼の新境地が見られたので、これからどんなふうに役者として成長していくのか目が離せないですし、ますます楽しみになりました。ちょうどうちの息子が思春期ということもあり、ちょっと親目線かもしれませんが(笑)」と期待を寄せる。 前作でもシャラメを中心に、ゼンデイヤやレベッカ・ファーガソン、オスカー・アイザックといった豪華キャストの出演が話題を呼んだが、さらに「PART2」ではオースティン・バトラー、フローレンス・ピュー、レア・セドゥなど、さらなる人気俳優たちも加わっている。「クリストファー・ウォーケンをはじめ、本当に好きな俳優さんだらけ。『ノーカントリー』の時から大好きなハビエル・バルデムにジョシュ・ブローリン。予備知識なく観たのでアニャ・テイラー=ジョイの役柄に驚かされましたし、『エルヴィス』で魅力いっぱいにエルヴィス・プレスリーを演じたオースティン・バトラーがサイコパス系キャラだったのもおもしろかったです」と熱く語り、次の時代を牽引する若手俳優であるシャラメとバトラーが激突する構図にも心躍ったという。 一方、キャラクターとして特に印象に残ったのは砂漠の民フレメンだった。「砂漠で生きる彼らの生命観に魅せられました。過酷な日々の中でも、彼らの恋や日常が丹念に描かれているので身近に感じたし、幸せになってほしいと願ってしまったくらい感情移入できました」。 ■「漫画にするなら、どうコマを割ろうかなと妄想が膨らみます」 人間以外にも、本作には砂漠に住む巨大な砂虫(サンドワーム)や小動物トビネズミといった砂漠の生物も登場する。「サンドワームがどう描かれるのかは、この映画の楽しみの一つでもありました。原作小説が宮崎駿さんに『風の谷のナウシカ』を想起させたらしいという話を聞いたこともありますが、特にポールがサンドワームの背中に乗って砂漠を疾走するシーンは爽快感があって良かったです」と話し、漫画でも描いてみたくなったという。「すごく迫力があるし、描いてみたいクリーチャーですね。漫画家としても、ちょっとこのモンスターは欲しい!と思わされるような。漫画にするなら、どうコマを割って、何ページ使っちゃおうかな、と妄想が膨らみます(笑)。砂漠を駆け抜けるシーンの迫力を伝えるなら、見開きを何枚も使ったりして、20ページ丸々使ってもよいですね!」と大きな刺激になったようだ。 ■「ヴィルヌーヴ監督の作品は、どこを切り取っても美術館に並べられる絵画のように美しい」 映画ファンでもある坂本は、創作面でも様々な映画からインスピレーションを受けているという。「監督の考え方やアイデアなどからインスピレーションを受けることもあります。特に、僕の漫画はほかの人がやらない実験的な表現をよくしているのですが、そういった表現は漫画よりも映画でよく目にするんです。映画を観て『自分たちは孤独じゃないんだ、間違いじゃないんだ』と気づかされることはよくあります」と話す。「『ボーはおそれている』なんてすごく実験的で、ほかでは類を見ない構成で作られていました。勇気をもらいましたし、改めていろんな映画を観ないといけないなと思いました」。 坂本作品の特徴である緻密な描き込みや、流れるようなコマ割りにも映画の影響があるという。「漫画はおもにセリフとト書き、擬音、集中線でテンポを取るので、いかに記号的に流れを見せるかがポイントです。でも、自分の作品はどうしても丁寧な流れを作らないと難しいんです。たとえばドアを開けるのも、滑らかな動きをコマを重ねて表現しています。そのテンポや見せ方は映画から学びました」とし、映画の構図に憧れを持っていると語る。 「漫画はコマを割っていくスタイルや、限られた時間内で行う共同作業ということもあり、絵画的にまとまった1枚絵を生み出すのが難しいんです。でも、ヴィルヌーヴ監督の映画は、どこを切り取っても美術館に並べられる絵画のように美しい。そんな構図を観ていると、幸せな気持ちになれますね」。 ■「創作意欲を掻き立てられるような、挑戦的な映画が大好きです」 多忙を極める坂本だが、可能な限り映画は映画館で観るようにしているそうだ。「作業中、デスクのモニターに映画を映すこともありますが、どうしても中断させられます。映画館に行き、しっかり拘束されたなかで観るという時間はすごく大事だと思います。サブスクで映画が手軽に観られるようになりましたが、大好きなホラー映画は家族と一緒に観られないので、やはり映画館ですね(笑)。ベスト映画はジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』が一番に来ちゃうくらい、好きなジャンルはやっぱりホラーやサスペンスです。でも漫画家としては自分が見たいものだけでなく、世の中の人達がおもしろいと言っているような映画も観に行くようにしています。両方見ることが大事かなと思いますし、自分と世間が思う『おもしろい』にずれが生じていないかという確認も込めて」という坂本に、最近の印象に残っている作品を聞いてみた。 「先ほどの『ボーはおそれている』はよかったですね。映画や漫画作りは作品に真摯に向き合うのが大前提ですが、そのうえで楽しみながら肩肘張らずに大騒ぎしてもいいんだ、という遊び心をもらえ、創作意欲を掻き立てられました。ほかにも、『ゴジラ-1.0』もすごくおもしろかったです」。 そんな坂本は、『デューン 砂の惑星PART2』もぜひスクリーンで楽しんでほしい作品だという。「壮大なドラマが味わえますし、ポールが少年から救世主へと成長を遂げる過程も楽しんでもらえるでしょう。シャラメくんの俳優としての新たな一面に惹かれると思いますし、なによりスケールの大きさはまさに映画館向きです。公開されたら、もう一度観ようと思っています」。 取材・文/神武団四郎