“見ない日はない性格俳優”大泉洋の豊富なキャリアが垣間見える…映画『ディア・ファミリー』で見事にハマった「手堅い演技」
“支え合い”が重要な作品で見せる手堅い演技
本作で演じる坪井宣政もまた、非常に個性の強い人物です。医療の知識ゼロの人間が人工心臓の開発に挑むだなんて、筆者には常軌を逸した考えのように思えます。もちろん、その根底には、ただ大切な娘を救いたいのだという切実な想いがある。けれども彼と同じような状況に置かれた場合、同じ考えを持つ人間がどれくらいいるでしょうか。 開発に「30年かかる」と言われれば、「じゃあ3倍頑張ればいい」と宣政は口にします。彼は何があってもあきらめずに挑む「胆力」と「行動力」という個性を持った人物なのです。 しかしこれは“奇跡の実話”がベースにありますから、その範疇を超えるような非現実的な言動は許されていない。宣政の振る舞いはすべて、あくまでも私たちの生きる現実に繋がるものでなければなりません。彼の言動はおそらく多くの人にとって、突飛なものだと映るでしょう。ですがそれを大泉さんは、勢いや力技で表現することは許されていないわけです。ある意味すべてのパフォーマンスが、地に足の着いたものでなければなりません。 ですから『ディア・ファミリー』における大泉さんの演技には、“新しさ”のようなものはあまり見られないかもしれません。宣政の挑戦を、非常に手堅い演技によって表現しているわけです。 坪井家の面々をはじめとする多くの人々とのやり取りも重要で、誰かとの関係において大泉さんはピッチャーにもキャッチャーにもなる。この連携がうまくいくことによって“支え合い”が実現しているからこそ、本作は主人公が娘の余命宣告を機に医療器具の開発に心血を注ぐだけのものではなく、家族の愛の物語になっているのだと思います。 宣政は陽気で涙もろく、ときに感情的にもなります。つまりはとても人間くさい魅力を持った人物。俳優・大泉洋のこれまでのキャリアが、このひとつのキャラクターからは垣間見えるのです。 ◆文筆家・折田侑駿さん 1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。