穏やかに笑顔を絶やさず 足先で絵筆を握って60年/福岡県宮若市
頼れる「よっちゃん」
長い活動の途中には、自身の創造性を発揮できないと限界を感じ、「自由にいろいろ描きたい」と悶々とした時期もあったそうだ。「今にして思えば良い経験。鍛えられました」と静かな口調で当時を振り返る。
これまで、古墳の装飾に加え、招き猫やタヌキの置物などに絵付けしてきた。「こうしたい、といった不満は今はもうありません。ある意味、一番いい時なのかもしれませんね」と目を細める。
「篠崎さんがおらんと成り立たない」。民芸庵の施設長・菊池芳郎さん(74)も全幅の信頼を寄せる。作業場では、焼き上がった陶磁器の表面にできる微妙な凹凸を足先の感覚で捉え、修正が必要な箇所に鉛筆で書き込む。その目印を頼りにして、仲間と一緒に紙やすりで丁寧に削っていく。
施設の若い仲間からは「よっちゃん」などの愛称で呼ばれている篠崎さん。休み時間には、作業場の若い女性とディズニーやアニメの会話を楽しむ。優しい笑顔でやり取りする姿は年齢の差を感じさせず、まるで友人同士のようだ。
「周りの人がいいから、みんなも良くしてくれます。それで長生きしているのだと思います」。終始穏やかな表情で、感謝の言葉を口にする。 丸く、やさしく――、円熟の技で、陶器の表面をなめらかに整えていく篠崎さん。目の前の作品と、温和な丸顔が重なった。
読売新聞