湊かなえ『人間標本』 “親の子殺し”テーマはずっと書いてみたかった 黒いものを詰め込んだイヤミス女王の話題作
いつか「ド・ロ様」が題材に?!
今回、サイン会のため長崎市を訪れた湊さん。湊さんの長崎訪問は今回で4回目だ。海があり、歴史が深い長崎に作家としても魅力を感じているという。 作家・湊かなえさん: 小説や映画と親和性が高い土地だと思う。前回長崎に来た時に大浦天主堂でド・ロ様がパスタの工場を作ったという話を聞いて、まだド・ロ様を大きくテーマにあげた小説は書いてないぞとか、まだみんなが知らないワクワクする話もあると思う。 フランス人宣教師マルコ・マリー・ド・ロ神父はキリスト教禁教の時代に来日し、長崎市外海地区で地域の貧しい人を救うため、私財を投じて教会や授産場、マカロニ(パスタ)工場などを建設。女性たちに働く場と生きる力を与え自立を支援するなど多大な功績を残した。現在、ド・ロ神父の名前がついた「ド・ロ様パスタ」や「ド・ロ様そうめん」などの商品が販売され、その功績は神父の没後100年以上経った今も伝えられている。
ラストのまさか!に「しめしめ…」
2024年6月、湊さんは長崎市の書店で行われたサイン会に6年ぶりに参加した。サイン会は『人間標本』のディスプレイコンクールで最優秀賞を獲得した全国3カ所のみで開催され、長崎の湊ファンにとっては嬉しい機会となった。 サイン会に訪れた湊作品のファンはその魅力について聞いた。 「予想外の感じが毎回驚かされる」「人間関係がよく表れていて、臨場感がある」「全然先が読めないようなトリックがいっぱいあったりして、唐突なところから急に始まる内容が大好き」など、展開が読めないことが作品に惹かれる理由の一つだと語る。 展開が読めないことー。そこにこそ湊さんの狙いがある。 作家・湊かなえさん: (読者を)裏切りたい。あなたの思い浮かべたその景色は本当に正しい景色なのかなということを。「驚きました」「最後まさかこうなるなんて」と言われたら、しめしめ、ありがとうございますと思う。
「イヤミスの女王」と呼ばれる所以
湊さんにはもう一つの名前がある。それは「イヤミスの女王」。イヤミスとは「読むとイヤな気持ちになるミステリー」の略である。デビュー作の『告白』はその代表ともいわれていて松たか子さん主演の映画も大ヒットした。嫉妬や自己嫌悪、裏切りなど負の感情を扱うことは人を描く上で欠かすことができないと湊さんは考えている。 「普段は一人で執筆するため、サイン会でファンのみなさんからパワーをもらっている」。そう話す湊さんはこの日サイン会に訪れた約100人のファンに2時間半かけて休みなしで対応をした。その温かい人柄もファンの心をつかんで離さない秘訣なのかもしれない。 (テレビ長崎)
テレビ長崎