日本卓球女子に見えてきた世界一の座。50年ぶりの中国撃破、張本美和が見せた「落ち着き」と「勝負強さ」
驚くべきは技のバリエーションの進化
ファイナルゲームで張本が放ったチキータ一つをとっても、これまでと違う「突然鋭くなるもの」だった。 チキータでスピ―ド速めると、ミスのリスクは高くなる。そこをやってのけた。やろうとする精神的な攻めの姿勢。そしてそれを実行できるのは練習量の賜物だろう。 5-3。ここではあの“絶対女王”孫が浮いたボールをミスするほど、打ち合いに耐えた。根性も感じる一本だ。 8-4とリード。勝てそうな瞬間。しかし、相手が最強中国の場合はいつだって「ここから」だ。 ここで張本は、フォア寄りのミドルにきたツッツキを、あえてバックドライブの姿勢で入り、そこから、打ちやすい相手のバックではなく、フォアへ放つことを試みた。 かなり、トリッキーな打ち方になったこのボールは惜しくもミス。 しかし、こういうプレーも必要だった。驚かせながら、攻めていく―――。日本の卓球に欲しい姿だ。 一点ずつ詰めていき、10-6となったところで、今度はフワッとした緩いバックハンドを使った。一発で打たれて終わりそうなこのボールをあえて選択。孫が驚いたような形でミスをして、このゲームが決まった。
孫穎莎も最後に屈した「世界最高の心・技・体」
これまで日本の卓球は、競り合いや土壇場で弱いと言われてきた。 特に、対中国となると「逆転負け」や「ファイナルゲームに持ち込んでの負け」が目立っていたのは事実だろう。 この現象には二つの意見が飛び交っていた。 一つは、なんとか競り合いに持ち込んでも、中国が「最後に競り勝てる」ということは、そもそも中国の方が実力は上だということ。つまり、心技体の「技」と「体」の部分の差となる。 もう一つは、最後の最後で、落ち着いて淡々と一点ずつを詰めていく精神力の凄さだ。つまり、心技体の「心」ということになる。 どれかが大きく上回っているのか、それとも、すべてが少しずつ上回っているのか。それは微妙なラインであり、誰にも断言することはできない。 しかし、今回の張本美和は心・技・体のすべてで、孫を上回ったと言えそうだ。 カギとなったのは、やはり、0-2で負けていた第3ゲームの中盤だろう。追い込まれていることを忘れさせるほどのプレーを見せたあの場面。諦めないのは当然としても、落ち着き払った姿を見せて、一本ずつ徐々に接戦に持ち込むことができていた。それが世界女王を相手に大逆転の勝利を生んだ。 2024年4月にマカオで行われた、ITTFワールドカップの時にも、すでにその片鱗は見えていた。ラウンド16で王芸迪を相手に勝利した際に、「いつもと同じ強気な姿勢」を崩さない姿が印象的だった。それは、すでに技術的には負けていないことも意味した。 パリ五輪でも、技術面では中国に迫るものがあった。そこに、海外での経験値を重ねる中で、心技体の「心」もついてきたということではないか。 徐々に見えてきた、完成形・張本美和。その実像は「世界の絶対女王」に近いものになるかもしれない。そこに平野美宇、伊藤美誠ら実力者が伴走し、万全の状態となったエース・早田ひなも加わる。 日本の女子卓球が世界のトップに君臨し続ける日が、“まさかの圧勝”を決めた今大会をきっかけに、いよいよ見えてきたと言えそうだ。 <了>
文=本島修司