尹錫悦失脚で韓国との距離を詰め始めた中国、新年早々「韓国滞在の中国人、政治活動に参加するな!」と警告した理由
上海の西側に位置する安徽省(あんきしょう)の出身で、安徽師範大学で学位を修めた後、中国外交部に入った。長くアフリカ外交を担当した後、2017年から2020年まで、アフリカ司(局)の司長(局長)を務めた。そこから、アフリカ大陸から54カ国が加盟し、最大勢力となっている国連に移り、副代表、特命全権大使を務めた。 ■ やる気まんまんの新任大使 戴兵大使を知る日本の外交関係者は語る。 「海千山千のアフリカで長年叩き上げられた外交官だが、前任の邢海明大使のようなアクの強いタイプではなく、どちらかと言えば温和で従順な性格。呉江浩(ご・こうこう)駐日大使と並んで、王毅外相のお気に入りの能吏だ。 国連大使を引きはがして韓国大使に据えたということは、来たる『李在明時代』を見据えて、韓国をアメリカの側から中国の側へ引き戻そうという深謀遠慮だろう」 戴兵大使は早くも、着任した日に金浦空港から、声明を発表した。 「韓国各界の友人、韓国在住の中国同胞の皆様、習近平主席の委託を受けて、第9代の駐韓国中国特命全権大使となることを大変光栄に思います。使命を光栄に思うと同時に、責任は重大であるとも深く感じています。 中国のリーダーが述べている国交樹立の初心を堅く守り、善隣友好を堅く定め、互利共勝の原則を堅持し、中韓戦略的協力パートナーシップの健全で安定的かつ前向きな発展を促進するために韓国と協力していきたいと思います……」
■ 密かに流行る「韓国デモ体験ツアー」に中国政府が警戒感 新年が明けてからも戴兵新大使が活発に活動していることは、在韓国中国大使館のホームページなどからも明らかだ。だがその中で、1月4日に在韓中国大使館が発した興味深い文章があった。全文は以下の通りだ。 <韓国の「出入国管理法」に基づき、法律が規定する状況を除いて、韓国にいる外国人が(いかなる種類のビザであれ)、政治活動に参加してはならない。もし違反した場合には、重い場合には即刻国外退去となる。 最近、韓国の多くの場所でデモ行進や示威などの政治集会が頻発している。在韓中国大使館は特に、韓国にいる中国公民や中国人観光客に、次のことを申し入れる。法律の意識と自己保護の意識を強化し、現地の政治集会や人々の密集場所とは距離を置き、政治的な言論を公開発表せず、集会が引き起こす交通規制に留意し、人身と行動の安全を確保すること> この警告文の意味するところは、単に中国政府が自国民の身を案じているのではない。中国では昨今、「韓国デモ体験ツアー」なるものが、密かなブームになっているのだ。 経済の悪化に伴う就業難などで、多くの中国の若者はストレスを溜めている。だが、中国国内でデモなど行えば、一生を棒に振るハメになる。そこで「韓国旅行」に行き、デモを体験してストレス解消してくるのだ。中国政府からすれば、彼らは将来の「デモ予備軍」に映るのだろう。 ともあれ中国外交にとっては、韓国の政権交代は、明らかに「僥倖(ぎょうこう)」である。昨秋の日本での石破茂政権誕生が「僥倖」であったように。
近藤 大介