自らおむつ履き排せつ実験、「おむつを開けずに中が見たい」介護職員の声を実現した臭いセンサー 原点は中学時代の介護経験、提携施設で集めた5千件のデータ
▽悩んだ進路、製品化に向けて起業を決意 排せつケアの支援という方向性が見えてきた中、宇井さんは介護職員の要望を聞き、製品設計で二つのポイントにこだわった。一つは、利用者の身体に機械を付けないこと。医療とは違い、介護が行われるのは日々の生活の場所だ。介護施設の職員から「利用者の負担を小さくし、できるだけ生活を乱さないものにしてほしい」と言われた。もう一つは「尿と便の両方が分かるようにしてほしい」。尿だけなら水分を感知できればいいが、便には反応できない。 こうした声を踏まえ、においを吸い込むシートをベッドの上に敷き、排せつをセンサーで検知するという設計が固まっていった。大学生時代にプロトタイプ(原型)まで作ったが、さらに改良して製品化を実現したかった。企業に就職して事業化を目指すか、大学院に進んで研究を重ねるか。進路に悩んでいた2011年夏、大学4年生のときに参加したビジネスコンテストで「今すぐにでも起業した方がいい」と高い評価を受けた。
それまで、起業は考えていなかった。コンテストの帰り道、進む先が見えて「すごく呼吸がしやすくなったように感じた」ことを今でも覚えているという。 ▽3年かけて築いた信頼 大学4年生の秋に「aba」を設立したが、事業は順風満帆ではなかった。においセンサーの精度を上げるには、データの収集と分析が欠かせない。介護施設に実験をさせてもらえないかと頼んでも、「大事な入居者さんにやらせられない」と断られた。当時は、テクノロジーを使って介護をすることに拒否感があった。「人の世話は人がやるもの」という意識が強かった。 そして製品の完成度も低かった。当時の製品は排せつを検知すると、ピー、ピーと音が鳴る。職員はほかの業務をしていても検知音を止めるため、作業を中断しなくてはならない。職員からは「やりたいことは分かるけど」と使いにくさを指摘された。 現場が抱える課題を見つめ直すため、介護施設にボランティアとして通い、その後職員にもなった。平日は自分の会社で実験や製品の改良を繰り返し、土日は介護施設で働く。こんな生活を約3年続け、ヘルパーの資格を取った。そうしていると、「あの子、介護職員までやっているらしいよ」という話が少しずつ広がり、データ取得に協力してくれる施設が増えていったという。