ロータリー復活への秘策 次世代エンジン「HCCI」が救世主に?
自己着火のための過給をする方法
だとすると、残る可能性は圧力である。圧縮比をぐっと上げて自己着火させられれば良いのだが、ちまたの噂を聞く限り、ロータリーでは機械的圧縮比を上げることがなかなか難しいらしい。具体的にはローターに設けられたくぼみを小さくすることになるのだが、このくぼみの形状はノウハウの塊で、下手にいじるとパワーにも排ガスにも多大な影響を与えてしまうのだ。お金と時間がふんだんにあるならともかく、基礎研究からやり直すのでは現実的ではない。 となれば、やはり過給に頼るしかない。HCCIを実現するためには常時過給圧が欲しいので、小径軽量のターボを使うことになるだろう。これを電動ウェイストゲートで制御して、予圧を管理する。 常に最適なタイミングで自己着火温度になるように、ノックセンサーと同じ仕組みで過給圧にフィードバック制御を掛ける。過給圧制御のレスポンスが命なので、精度が上げられるようにウェイストゲートを装備する位置を考え直す必要があるかもしれない。 低速でのレスポンスを重視してタービンを小型化すると、高速側では過給が足りなくなるので、上は捨てるしかない。あるいはシーケンシャルターボにすることで上まで過給することができるかもしれない。ただしHCCIはリーンバーンと同様に、理論空燃比より薄い燃料で燃やすことができることが最大のメリットなので、本質的には低速型エンジンに仕上げるのが本筋であるように思う。 HCCIでは、ディーゼル同様、吸気は常に目一杯吸わせても空燃比と関係なく燃焼するので出力は燃料の噴射量だけでコントロールすることになる。これによってポンピングロスも減り、こちらの面でもパワー、燃費ともに改善するだろう。 これでロータリーの不完全燃焼の問題は解決できるように思う。悪評高い燃費も相当向上するだろう。
最先端エンジンとしてよみがえる?
さて、前回の記事の最後にモーターファン・イラストレーテッドVol.19で元マツダのエンジン設計者の畑村耕一氏が、架空記事としてHCCIロータリーの話を書いていたらしいという情報を書いた。その本がようやく入手できたのだが、やはり本職は筆者のターボ過給という凡庸なアイディアとはレベルが違った。畑村氏が提唱するのは以下のようなシステムだ。 燃焼膨張中のガスを電磁バルブ付きの通路を使って圧縮行程の混合気に吹き込む。これはおむすびの角を隔てて隣り合っている次の燃焼室へ導くということだ。燃焼膨張中のガスはエンジンの中で最大の圧力を持っている。圧縮行程の圧力とは比べ物にならないほど高いので、電磁バルブを開くと次の燃焼室に超高速で流れ込み、瞬間的に圧縮を一気に高め、混合気と炎を攪拌(かくはん)する。つまりこの通路の開閉で瞬間過給を行って、一気に自己着火温度まで高めるのだ。これが先ほど伏せていた(4)で、ブローダウンと呼ばれる方法だ。 圧力によって温度を上げることと同時に、通路のバルブ制御によって着火のタイミングを能動的にコントロールできるという一石二鳥のシステムだ。前の燃焼室と次の燃焼室が直近にあるロータリーならではのアイディアだ。しかもターボに比べたら追加部品がはるかに少ない。 記事にはこのシステムの様々な効能が書かれているのだが、それをここで全部書くのは申し訳ないので仕組みの概要に止める。 筆者のアイディアではロータリーをなんとか復活させる程度のものでしかなかったが、畑村氏のシステムではもしかするとロータリーが最先端エンジンとしてよみがえる可能性がありそうに思う。 多くのファンが待ち望むロータリーエンジンの復活は本当に実現するかもしれない。マツダのエンジニア達の奮闘に期待して待とうではないか。 (池田直渡・モータージャーナル)