行政事業、合理的根拠に基づく「エビデンスト・ベースト・ポリシー・メイキング」(EBPM)に注目
記事のポイント①政府行政改革推進本部はこのほど、「秋の行政事業レビュー」を実施した②このうち政策の目的を明確化したうえで合理的根拠に基づく「EBPM」が注目された③EBPMの浸透のためにはウェルビーイングや心理的安全性の確保も重要だという
政府行政改革推進本部は11月、秋の行政事業レビューを開いた中で、「EBPM」「リスキリングキャリアアップ支援事業」など7テーマで議論した。「EBPM」は、政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすること。有識者からは、EBPM浸透にはウェルビーイングや心理的安全性の確保など職場環境の改善が必須との意見があった。(オルタナ総研フェロー=室井 孝之)
行政事業レビューの狙いは、次の3点である。 ・各府省庁自らが、EBPM(Evidence-Based Policy Making: エビデンスに基づく政策立案)手法を用い、事業の進捗効果を点検し、事業の見直しにつなげる ・予算の最終的な使途を把握し、過程を公開し,事業の内容や効果を点検する ・結果を予算の概算要求や執行等に反映させ、無駄のない、質の高い行政を実現する テーマ「EBPM の推進を担う人材育成の在り方」では、行政の「無謬性神話」から脱却し、複雑かつ困難な社会課題に適時的確に対応できる、より機動的で柔軟な行政への転換が求められるとの課題が紹介された。 課題解決には「PDCAサイクルを回し、環境変化に対応しながら政策効果を上げることを追求するダイナミックなEBPM」ならびに「経験のない課題について、考え得る最善の政策でチャレンジし、トライ&エラーで精度を向上させること」が不可欠となる。 「EBPM」は、政策立案者誰もが行う日常的な政策プロセスであり、行政官としての政策立案スキルを向上させる重要な取り組みである一方で、「やらされ感」「後ろ向きな対応」「後回し」という現状がある。 現状を打破するEBPMの推進を担う人材の育成の在り方についての3つの論点と有識者の意見は次の通りである。 1. EBPMの定着と人材育成の好循環の視点での意見: 「自分事として事業執行する」「政策の実績の積み上げが、キャリア上、大切」「ミニマムスペックとしてデータで理解した社会に対しての政策が重要」 2. レビューシートの作成実務は、係長・係員の若手職員だが、事業や施策の実施の意思決定を幹部・管理職が担っていることを踏まえ、幹部・管理職の関与のあり方を見直すべきではないかの視点での意見:「上司は職場におけるWell -beingや心的安全性の確保が必須」「上司は部下に対し、なぜここで働くのか、なぜこの仕事をするのか、問いかけることが大切」 3. 予算事業の指標設定を求める中で、現場の負担にも留意した調査設計(リサーチデザイン)(集めるデータの絞り込み、重複調査等の排除)などが求められる視点での意見: 「米国の政策分析官が参考となる」 平将明デジタル大臣は、「令和6年4月から、 23の府省庁が利用する、府省庁共通システムとして、 RSシステム(レビューシートシステム)の稼働を開始したが、今後はAI活用が可能である。若手のクリエイティブな仕事へのチャレンジにも繋がる。大臣表彰も検討したい」と締め括った。 本テーマの有識者は、次の7名である。 伊藤 伸 政策シンクタンク構想日本、総括ディレクター 大橋 弘 東京大学副学長、公共政策大学院教授、大学院経済学研究科教授 (取り纏め)亀井 善太郎 PHP総研主席研究員、立教大学大学院社会デザイン研究科特任教授 佐藤 孝弘 山形市長 島田 由香 YeeY共同創業者、代表取締役 瀧 俊雄 マネーフォワードグループ執行役員 西内 啓 千葉大学データサイエンスコア特任教授