コロッケでも餃子でもハンバーグでもない…受刑者200人が答えた「刑務所ごはん」人気No.1メニューとは
肉は調理前に必ず一度茹でる、野菜類は冷凍のカット野菜……。獄中の200人に行ったアンケートから浮かび上がる“塀の中”の食事事情とは――。 【写真を見る】コッペパンを主食としたメニュー ※本稿は汪楠、ほんにかえるプロジェクト『刑務所ごはん』(K&Bパブリッシャーズ)の一部を再編集したものです。料理の写真は、同書の調査を基に料理家が再現したものです。 ■煮物のように水っぽい「炒め料理」 写真(右)はある日の昼食の再現イメージ。キャベツと鶏肉のレモンバター炒め、野菜のチーズサラダ、缶詰のみかん、という副菜の献立だ。 衛生面を配慮してのことだろうが、肉は調理前に必ず一度茹でることになっているという証言があった。大きな鍋に湯を沸かしたとしても、直前まで冷蔵庫に保存されていた大量の肉を投入すれば、湯の温度は一気に下がる。茹でるあいだに脂も肉汁も抜け出てしまうだろうから、旨みが損なわれるのは避けようがない。炊場での調理は基本的に大きな蒸窯を使っておこなわれるため、「○○炒め」というメニューであっても高温の火力で勢いよく炒められたものではないし、そもそも炒められていないような気がする。 野菜類は冷凍のカット野菜が使われることが多いが、これも調理の過程で水が出やすい。価格が安定している、下処理が少なくて済む、衛生的であるなど、さまざまな利点があるのだろうが、「歯ごたえがない」などといった不満につながる一因だろう。炒め物とは名ばかりで、実際は「水気が多くて煮物のようだ」と嘆く声もあった。
『刑務所ごはん』では一般的な家庭用の調理機器を使って、刑務所の味の再現を目指した。複数の元受刑者に試食してもらい、食感や盛り付けについてもアドバイスを受けた。家庭で再現する際には「水を多めに加える」、「長時間じわじわと過熱する」、「とにかく薄味に徹する」ことを意識することで、多少は刑務所の味に近づけられるかもしれない。 ■三食のうち最もバリエーションが多い昼食 刑務作業に従事する受刑者にとって、最大の活力源となるのが昼食だ。主食の中心が麦飯であることは変わらないが、パンや麺類といった食欲をそそる変化が期待できる。三食のなかで最もメニューのバリエーションが多い。 パンといえば獄中ではコッペパンだが、これは市販のものより大型だそうだ。炭水化物のカロリーが生む熱量が、一日の労働の糧となる。パン食の日が嬉しいという声は多く、出所後はパン屋になりたいと夢想する受刑者も珍しくないようだ。 刑期を終えればまた、外の社会でどうにかして生計を立てていかなければならない。その後の生活の手段を不安視する受刑者が多いのは想像に難くないが、では一体どうすればいいのか? さまざまな理由から前科を持つに至った者にとって、その不安が小さくないであろうことは想像に余りある。 社会に受け入れられなければ、またなにか過ちを犯してしまうのではないか。長い服役生活のなかでそんな不安が募る。社会復帰に向けた教育をもっと充実させてほしいという受刑者の意見は切実だが、実情は及ばない。 生まれ落ちた家庭環境、経済状況、そのようなあれこれを悔やんでも、いまさら自分ひとりではどうすることもできない。出所できたとしたところで、過去の人間関係を頼るほかないのだとすれば、またこの道に引き戻されてしまいかねない。