コロッケでも餃子でもハンバーグでもない…受刑者200人が答えた「刑務所ごはん」人気No.1メニューとは
■「○○風」というメニューに期待してはいけない ポテトコロッケ、鶏肉野菜炒め、ハンバーグ、いわしハンバーグ、メンチカツ、オムレツ、春巻、麻婆春雨、鶏肉と里芋の炒り煮、白身魚のフライ、餃子、豚汁、コンソメスープといった華やかなラインナップが供されることもある。 麺類を挙げればラーメン、うどん、スパゲティ、蕎麦、焼きそばとメリハリがある。ミートソース、五目、天ぷら、ジャージャー、きつね、南蛮……、いずれもこころ沸き立つような響きだが、名前どおりの期待が満たされるとはかぎらないと受刑者は言う。 特に身構えておきたいのが、洋風・和風・中華風、柳川風、すきやき風、さらにはハワイアン風、ガパオ風、ビビン麺風といった、○○風の献立だという。献立を組む立場としては少しでもと工夫を凝らしたい。給与される側は想像力をかきたてられ、そして裏切られる。切ないといえば、あまりに切ないやりとりだろう。 喜ばれるのが“ぜんざい”だ。甘く煮た小豆の餡は、コッペパンとマーガリンとの抜群の相性を誇る。アルコール類やスパイスといった刺激物から遠ざかって久しい受刑者たちにとって、“ぜんざい”にかぎらず甘味の魅力は絶大だ(味醂(みりん)もアルコールだから使われない)。 「甘しゃり」を味わい英気を奮い立たせ、今日の活力とする。
■「味があるから」受刑者に一番人気のメニュー 千葉刑務所に服役中の受刑者は言う。「たいていの人は(好きなメニューは)カレーと言います。理由は、味があるからです」 大分の受刑者も「結局一番となるとカレー」と同意見だ。「基本的に毎週1回食べられるのも嬉しい」と、その理由を語っている。 それと分かる味があり、また必ず定期的に食べられる。カレー人気の高さの所以(ゆえん)だ。 平日の昼食は、それぞれの従事する刑務作業の工場に配られる。「おい! 俺のカレーに肉2個しか入ってねーぞ!」と怒号を上げる受刑者がいる。すると、各テーブルから「○○さん、みんな1個しかないよ、それ当たりだから」などとたしなめる声が聞こえる。肉といっても小さな肉片であって、大きな塊ではない。これは千葉の受刑者から寄せられた手紙のなかで描かれていた、ある日の昼食の情景だ。 宮城の受刑者は、「カレーの日の副菜に必ず”福神漬”がつくのですが、これも一品扱いですよ!」と不満を訴える。副菜の品数は限られている。以前は3、4粒ほどの“らっきょう”が添えられることもあったそうだが、大きさや個数が喧嘩の原因となるため、今では姿を消したという。熊本からは「カレーにジャガイモが入っているのに、付け合わせがポテトサラダ」と問題視する声も届いた。 人気メニューのカレーだが、今では具材も寂しくなっているという。冒頭の写真は“生揚げ”のカレーだ。肉類を中心に使われる食材が減るなか、大豆由来のタンパク質が存在感を増している。 ---------- ほんにかえるプロジェクト 2015年9月、受刑者の更正支援団体として設立。今までに約400名の面識のない受刑者に約1万冊の書籍を送り、受刑者が有意義に刑期を過ごせるよう支援してきた。本を送った受刑者会員と文通することでひとりの人間として接し、寄り添うことで社会との接点を作れるよう努力している。 ----------
汪 楠、ほんにかえるプロジェクト ライター=田内万里夫 写真=名和真紀子 料理=田内しょうこ