多国間軍事演習・リムパックで見えた自衛隊&米軍の最新「対中国戦略」
中国が侵攻すれば、台湾は無傷では済まない。しかし一方で、諸外国は台湾にいる自国民の保護・退避のために、軍の派遣を迫られる。リムパックで環太平洋地域の多国籍軍が見せた、着上陸から市街地を制圧するMOUT訓練は、その可能性を具体的な形で中国に示す意味合いがあったのだと思う。 この水陸両用戦訓練で、海上自衛隊のおおすみ型輸送艦「くにさき」から発艦したLCACで海浜部に上陸したペルー海兵隊は、軽装甲車両で内陸部へ移動し、ヘリの降着地点を確保。その後、インドネシア、トンガ、スリランカ、フィリピン、マレーシア、韓国、メキシコ、そしてアメリカの各軍がヘリやAAV(強襲上陸戦闘車)で上陸し、敵軍を掃討するために市街戦へとなだれ込んだ――。 * ただし、現実には事がそううまく運ぶとは限らない。中国と台湾はあまりにも距離が近く、戦術・戦略のカードの枚数は、米軍・自衛隊側よりも、中国軍のほうが圧倒的に多いからだ。 また、アメリカ政府としても、この問題について判断を誤ると政治的に取り返しのつかない事態となる。中国はその政治的な弱点を突いて、まったく別の形で"電撃作戦"を行なう可能性がある。 例えば、台湾海峡に艦艇を出すのではなく、いきなり数千発の地対地ミサイルを叩き込み、台湾の陸海空軍基地を一気に壊滅させる。同時に、あらかじめ台湾に潜入していた中国軍の特殊部隊が動き出し、都市部のテレビ・ラジオ局を占拠して情報をジャックする―といったシナリオだ。 こうした手に出られたら、米軍がMDTFというカードを使うチャンスはない。今後、政治・軍事両面での駆け引きはどうなっていくのか。 撮影・取材・文/柿谷哲也 協力/小峯隆生 写真/米海軍 米陸軍