はやぶさ2の探査予定小惑星に「トリフネ」と命名! 日本神話の神に由来
■日本神話の神に由来する「トリフネ」に決定!
提案された小惑星の名称は、IAUの作業部会「WGSBN」に所属する15人のメンバーによって、審査と投票が行われます。ここで承認されれば、初めて名称が正式なものとなり、WGSBNが定期的に発行する『WGSBN速報(WGSBN Bulletin)』にて公表されます。そして、2024年9月23日付で発行されたWGSBN速報4巻13番にて、2001 CC21の名称が「トリフネ(Torifune)」で承認されたことが公表されました。 ==引用文== Torifune (an abbreviation of Ame-no-torifune) is a god in Japanese mythology. It is also the name of the god's ship, which can travel safely at high speed like a bird and steady as a rock. The Hayabusa2 spacecraft will perform a flyby of this asteroid, and the name expresses the hope that Hayabusa2 will be able to safely conduct the high-speed encounter. トリフネ(天鳥船、あめのとりふね、より)は、日本神話における神である。同時に神が乗る船の名前でもあり、鳥のように速く、岩のように安定して安全に航行できる船である。「はやぶさ2」探査機は、この小惑星のフライバイ探査を行う予定であるが、この名称は、「はやぶさ2」が高速でこの小惑星とすれ違う運用を安全に行うことができるよう願って付けられたものである。 ==
理由の説明の通り、トリフネとは『古事記』や『日本書紀』に登場する神に由来します。どちらも神格ではあるものの、同じような場面で異なる描写がされています。『古事記』では「天鳥船神(あめのとりふねのかみ)」または「鳥之石楠船神(とりのいわくすふねのかみ)」という神名の、イザナギとイザナミの間に産まれた神です。建御雷神(タケミカヅチ)の付き添いとして葦原中国(地上世界)に遣わされた神として描写されています。 一方で『日本書紀』では、人のような神ではなく、物質的な船として描写されています。上述した、葦原中国に神を遣わす場面について、『日本書紀』では使者は別の神である稲背脛命(イナセハギノミコト)と述べており、「熊野諸手船(くまののもろたふね)」、および別称「天鴿船(あまのはとふね)」という船に乗ったと描写されています。『日本書紀』で「天鳥船(あめのとりふね)」という名称が出てくるのは、大己貴命(オオアナムチノミコト)が海を渡るために与えられた船として言及される場面です。 日本神話に関する他の記述も含めて解釈すると、「鳥」と付く船にはその船が速いという意味が、「石」にはその乗り物が堅固であるという意味が込められているという説があります。また楠(クスノキ)は、古来から船の建材として重宝されてきました。このことから鳥之石楠船神という神名には、鳥のように速く、岩のように堅固であるという意味が込められていると解釈できます。 広い宇宙の中で、大きさが数百mしかない小惑星を目標とするのは、ただ接近するだけでも困難です。まして相対速度約5km/sという高速のフライバイでは、カメラの視野に収めるだけでも困難があります。さらに今回は、はやぶさ2のカメラで高精細な撮影を行うために、トリフネに対してかなり接近する超近接フライバイを予定しています。 ミッションの困難さを考えれば、はやぶさ2が探査する小惑星にトリフネという名が付けられたのは、探査が無事に成功するようにという強い願いが込められていることがよく分かります。また、正式な理由には書かれていないものの、鳥のハヤブサに由来するはやぶさ2の探査天体にふさわしい名前とも言えるでしょう。