『虎に翼』に影響を与えた“ベテラン女優たち” 石田ゆり子、田中真弓、余貴美子らの名演
平岩紙、鷲尾真知子、余貴美子が『虎に翼』に刻んだ名演
●梅子(平岩紙) 女子部二期生の中で年上の梅子を演じたのは、コメディ作品からシリアス作品まで幅広く演じてきた平岩紙。年上ということもあり、寅子たちの中ではお姉さんとして昼休みにおにぎりを振る舞ったり、寅子たちを気遣ったりしていた。弁護士の夫から子供の親権を取って離婚するために明律大学で法律を学ぶことを決意した梅子だったが、夫から離婚届を突き付けられ、三男・光三郎を連れて一度は家を出るものの、「光三郎と一緒に居ていい」との条件で連れ戻された。 離婚や親権はおろか、夫が亡くなった後の財産もろくにもらうことができず、残酷な人生を歩んできた梅子。だが、大庭家の相続争いの中で、「私は全部失敗した。結婚も、家族の作り方も、息子たちの育て方も、妻や嫁としての生き方も全部」と高笑いしながらすべてを投げ出すシーンは、平岩の振り切った演技も相まって、心がスッキリとして気持ちにさせられた。 ●常(鷲尾真知子) そんな梅子を苦しめてきた元凶でもある姑・大庭常を演じた鷲尾真知子の演技も視聴者を釘付けにした。遺産相続の問題で梅子と対立した常は、どこか冷たく、はるとは違う意味で何事にも動揺しない芯の強さがある人物だ。孫に対しては優しさを持ち合わせている一方で、梅子に対して向けるまなざしは厳しく、梅子にとって手強い相手として立ちはだかった。『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)で、上白石萌音演じるヒロイン・安子の祖母である橘ひさ役で見せた柔和な表情とはあまりにも正反対の役柄でそのギャップにも驚かされたが、鷲尾の深みのある演技から生まれる威厳は間違いなく作品のアクセントになっていたように思う。 ●百合(余貴美子) 新潟から東京へと再度舞台を移した寅子。星航一(岡田将生)と一緒に暮らすことになった寅子と優未が星家で暮らすことになってから関わることになったのは航一の母・百合である。百合は初代最高裁長官・星朋彦(平田満)の再婚相手で、朋彦が亡くなってからは星家の大黒柱として家を守ってきた。『新宿野戦病院』(フジテレビ系)での怪演が鮮明に記憶されている余貴美子だが、本作では優未(毎田暖乃)をまるで本当の孫のように接する優しいおばあちゃんとして、鳴り物入りの寅子たちを支えた。 しかし、痴呆症の症状が出始めると、優未に対しても厳しく当たるようになる。柔和な百合が日に日に記憶障害が進み豹変するその様は身の毛がよだつ思いがした。その微細な変化を表現する余の演技はとてもリアリティのある素晴らしい名演だった。 こうしてみると、『虎に翼』は多くのベテラン俳優たちの名演によって支えられているのだと思わされる。今週で『虎に翼』は終わりを迎えるが、彼女たちの演技はこの先も記憶の中にとどまり続けることだろう。
川崎龍也