HV特許を無償提供するトヨタの真意 そして電動化への誤解
ハイブリッド車の電動化技術に関する特許をトヨタ自動車がオープンにする方針を発表しました。2030年末までに約2万3740件の特許を無償で提供します。ある意味で“敵に塩を送る”かのような決定ですが、トヨタの真意はどこにあるのか。モータージャーナリストの池田直渡氏に寄稿してもらいました。 【動画】出し惜しまないトヨタとオールジャパン 寺師副社長インタビュー(3)
◇ 4月3日。トヨタはハイブリッド技術の特許を無償提供することを発表した。提供範囲はモーター、パワーコントロールユニット(PCU)、システム制御など。 トヨタは2015年1月に燃料電池車(FCV)の特許の無償供与をアナウンスし、17年9月にはマツダ、デンソーと設立したEV C.A. Spiritを通じて、EV(電気自動車)の標準規格を策定し公開すると発表している。 今回HVの無償提供を追加したことで、HV、FCV、EVというこれからの環境戦略の軸となる全てのジャンルについて、何らかの形で技術供与を行うということになる。
無償提供される「三種の神器」の2つの技術
名古屋ミッドランドで3日に開かれた記者会見と同様に、日を改めて東京本社で開かれた記者説明会で壇上から説明をしたのはトヨタ自動車技術系のトップ役員である寺師茂樹副社長だ。 この話を理解するためには前提となる事項が多いので、まずはその整理から始めよう。トヨタの発表にあるモーターとPCUとは電動化「三種の神器」のうちの2つ。残る1つはバッテリーだ。「電動化」とは「電気自動車化」ではなく、何らかの形でモーターを搭載する。つまりハイブリッドも含む。ここを分かっていないメディアも多く、電動化の話題が出る度に、いまだに誤解を広めるので、いつも話がややこしくなる。
今回HV向けに無償提供が発表されたのは前者2つ(モーターとPCU)だが、トヨタは「適合」についても有償技術支援を行うとアナウンスしている。適合とは聞き慣れない言葉かもしれないが、例えば和服で言えば着付けのようなもの。おもちゃにモーターを付けるのと違って、クルマの電動化はモーターと電池を配線でつなげば動くというものではない。ましてや、HVではエンジンとモーターの協調制御を丁寧にやらないと製品としてちゃんと成立しない。膨大なノウハウがいる。 さて、ではバッテリーの技術は供与されないのかと言えば、そうではないが、モーターとPCUという前者2つとは扱いが少し違う。トヨタは現在パナソニックと提携してバッテリーを開発しており、バッテリーについては将来的にこの枠組みを通じて提供できる方向で検討中だ。ただ、現時点ではバッテリーの絶対的供給量は逼迫状態にあり、そこにハードルがあるのは事実だ。 しかしながら現実的な話、ハイブリッド(HV)のみならず、プラグインハイブリッド(PHV)にしても、電気自動車(EV)にしても、燃料電池車(FCV)にしても、これからのエコカーにバッテリーは必須。なくては成立しない。つまり適合を引き受けるに際し、発注側に独自ルートでバッテリー調達の目処があれば別だが、現状の逼迫状態を見ればそれは期待薄だ。バッテリーの調達を何らかの形でセットに組み込まなければ適合などできようもない。ただし、バッテリー搭載量が最も少なくても成立するHVとその数十倍レベルのバッテリー容量を必要とするEVでは、供給問題のハードルの高さが違う。言うまでもなくHVの方が楽なのだ。