たった10年で漁獲高が半分に…サケ漁“日本一”北海道斜里町による「絶望からの逆襲」
漁獲高はたった10年で「半分以下」に…
斜里町のサケ漁獲高は2003年に2万トンの大台を超えた。だが2013年の2万4921トンを最後に2万トン割れが続き、2019年にはついに1万トンを割った(7860トン)。前川氏は「2021年にはコロナ影響もあったが、年間5000トン程度にまで減少しました」と話す。 2022年に再び1万トンを超えたものの、減少傾向であることは変わらない。「安定した水揚げ量の確保」に向けた取り組みの重要性が増しているのだ。そのためには不漁の原因を特定する必要がある。 知床データセンターが公開する「知床世界自然遺産地域年次報告書」(平成24年度)によれば、同年度の秋以降の海面水温は、「平成22、23年度と同じく平年に比べて高水温が続いていた」という。 これが「沿岸に回帰するサケ類の来遊量の減少と、オホーツク海沿岸への来遊の偏りを生じさせたと推定される」とのことだが、こうした分析の元となるデータはまだ少ないのが現状だ。 こうした絶望的な状況から脱却し、今後の安定的な漁業を継続させるには、データドリブンな漁業、すなわち「スマート漁業」に向けた取り組みが不可欠だ。そこで斜里町は、安定した漁獲高と収益確保、作業効率向上のために、データの可視化、利活用による「スマート漁業」に向けた実証の取り組みを開始した。
「スマート漁業」のスゴイ成果
スマート漁業の取り組みは、日本事務器や、観測ブイを提供するゼニライトブイ、データ分析には北見工業大学などの学術機関が協力する官民一体となった取り組みで、次のような3つのテーマ(課題解決)を掲げている。 (1)環境変化の影響や放流稚魚の生命力、遺伝的性質など「不漁の原因把握」 (2)海水温変化や潮流変化など「海洋環境の可視化および出漁状況判断への活用」 (3)漁業操業の効率化や生産者と買受人の情報の共有といった「経営改善」 まず不漁原因として、水温の変化に着目。斜里町(前浜から半島地区)の海洋に観測ブイを設置し、海水温と潮流の可視化、把握を行った。前川氏は「観測ブイの設置箇所を年々、増やす予定で、より精緻なデータを取得できるようにしていく方針です」とする。 これに加え、日本事務器のモバイルプラットフォーム「MarineManager +reC.」を用いたデータ共有の取り組みも実施。これは、モバイルアプリを通じて、観測ブイなどから得られた観測情報と、漁業者による船上からの漁獲報告を起点とした情報利活用の取り組みだ。 これらの取り組みを通じて得られた成果として、前川氏は「潮流を知ることで、出漁の可否や、作業面の効率化につながりました」と話す。天候により、潮の影響で定置網を引き上げることができないケースがある。 特に半島方面は潮の流れが速いため、3日間連続で出漁できない日もあり、潮の流れの速さによる影響は月に数回あるという。しかし、ブイ設置前は潮流状況を把握できないため、現場に行って、網の状況を確認する必要があった。 「沖合の現場で2時間、3時間と待機した後、潮が穏やかになってやっと網起こしが可能になるケースや、現場に行ってみたもののそのまま引き返すケースもありました。ブイ設置後は、潮流が可視化されたので、潮流が穏やかになってから船を出す、あるいは操業は見合わせるといった判断がデータから可能になりました。その点で、作業効率向上や燃油コストの圧縮といった効果につながっています」(前川氏) 今回のスマート漁業の実証実験に協力した日本事務器 事業戦略本部 バーチカルソリューション企画部 水産関連事業担当 マーケッターの和泉 雅博氏も「物流面の課題解決にも貢献しました」と説明。 これまでは、水揚げされた魚の数量が仲買人に共有されるのは浜での荷揚げの後だった。アプリ導入後は、入港前に水揚げ量をアプリに入力するため、仲買人は水揚げ前に量を把握できるようになり、事前に購入量に合わせたトラックを手配することが可能になった。