東大理三日本一、灘の現役教師が考える「国語力」の育み方
書かれたことさえわかれば良い、で学習が止まってしまうのではなく、教室を出て、体験と言葉を結びつける活動です。
加藤:それは「役に立つ病」の視点からだと、受験に遠回りではないかと批判を受けそうですね。
井上氏:そう思われがちなのですが、実は橋本先生の学年は成績が良かったんです。橋本先生の受けもつ学年は合格率が跳ね上がるんですよ。「体験」をきっかけに国語への関心や学習への意欲が高まることで、成績も上がったのだと私は思います。
とはいえ、日本の教育がすべて悪いとは言いません。橋本先生も、体験をもとに自分で考える学習と、受験のための学習を両立されていました。
これまでの日本で行われてきた、ベルトコンベア的に知識・技能を丁寧に詰め込みながら思考力にシフトしていくような合理的な教育は、非常にコスパと効率が良い仕組みです。
加藤:結局はバランスなんですよね。転換期だからこそ、その塩梅が難しい。
井上氏:ただ、本を読むとか、自分の感情を表現するといった言葉と向き合う態度は、小さいころから体験を積み重ねる事で原動力になって動いていくものです。ですから、ご家庭ではぜひ、お子さん個人の体験やものの見方をけして否定せず、大切にしてあげてほしいです。
加藤:小さいころに親子で読み聞かせを楽しんだり、本の世界を親子で旅してみたり、言葉を通じた原体験の積み重ねが効いてくるわけですね。
井上氏:そこでひとつ注意してもらいたいのは、「役に立つ病」に侵されないこと。実用性を目的にしないことです。
加藤:確かにそこはとても重要ですね。「将来の役に立つから」などと言われたら、むしろ子供はやる気を失ってしまいます。
井上氏:国語力のゴールは「あなたにしかできない考え方は?」という問いに答えられる力を身に付けることだと思うんです。自分を形づくっているのは、具体的な体験や言語活動の積み重ねです。自らの体験を大切にして、そこに思考の糸口があることに気付ける学習者を育まなければいけません。