なぜビッグバンの前に「インフレーション」が起きたと物理学者は考えるのか?ビッグバン理論では解決できない4つの問題
宇宙マイクロ波背景放射が等方的である理由?
くわしく言うと、この宇宙マイクロ波背景放射は、宇宙ではじめて中性の水素原子が誕生した痕跡です。そのため、ビッグバン宇宙論の証拠です。 ビッグバン以前の宇宙はさらに高温だったため、電子は陽子と結合することなく自由に動き回っていました。その自由な電子が陽子と結合して、よく知られた水素原子ができる反応において、電磁波が放出されます。その電磁波が、宇宙の膨張の結果、マイクロ波での背景放射として現在の宇宙を満たしているのです。 マイクロ波背景放射は、非常によい精度で等方的です。ここでの等方的とは、どの方向からの電磁波でも強度が同じだという意味です。 いま我々に届くマイクロ波背景放射の強度がどの方向でも同じだということは、その放射が行われた時点(時刻と場所)での電子と陽子の単位体積あたりの個数(数密度)および温度が、宇宙のまったく離れた場所にもかかわらず、偶然にも同じだったことになります。 ここで重要な点は、その離れた2点は、当時の宇宙での同一の地平線内に存在しなかったことです。地上でたとえると、日本とブラジルのようなものです。互いを同時に直接見ることはできません。 このように因果的に関係がないはずの宇宙の2つの地点における物質の数密度と温度が同じであることは、通常のビッグバン理論を用いて説明できません。あくまで、マイクロ波背景放射の観測結果に過ぎません。
(2)平坦性問題
以前の記事で紹介した「フリードマン方程式」は、宇宙の膨張や収縮を数学的に予言するものです。これを調べると、宇宙の空間曲率は一定で、それは3通りに限られることが証明されています。 ここでは、我々の宇宙はじゅうぶん大きなスケールでは、場所によらず、方向にも依存しないとします。これを「一様・等方の仮定」といいます。少し難しい言葉が出てきました。まず、「空間曲率が一定である」ことの意味は、空間の曲がり具合が場所によらずに一定だということです。たとえば、球の表面やまっすぐなストローの表面の曲がり具合は、面の上の場所の選び方に依存しません。この場合、曲率が一定です。 一方、ラグビーのボールの表面の曲がり具合は一定ではありません。フリードマン方程式における宇宙の空間曲率は一定ですが、その「一定な値」は宇宙の膨張(あるいは収縮)とともに変化してかまいません。つまり、その値は場所によらない定数ですが、時間の関数であってよいという意味です。 空間曲率がゼロの場合は、空間が曲がっていない場合です。この場合、時空の空間部分は、1章でふれたユークリッド幾何学で記述されます。 空間曲率が正の場合というのは、丸い風船の表面を思い起こしてください。空気を吹き込んで風船を膨らませると、風船表面の曲がり具合が穏やかになります。つまり、曲率は小さくなります。同様に、空間曲率が正の宇宙が膨張すれば、その空間曲率は小さくなります。 空間曲率が負の場合は、我々の身の回りの例えで表現するのが困難です。強いて言えば、BS放送を受信するためのパラボラアンテナの放物面をイメージしてください。この負曲率の宇宙の場合も、宇宙の膨張によって、曲率の値は変化し、徐々に小さくなります。 現在までの天文観測の結果、我々の宇宙の曲率の値は限りなくゼロに近いことが判明しています。ビッグバン宇宙理論のもとでは、フリードマン方程式を用いることで、曲率の値の変化の方が、物質密度の変化よりも桁違いに大きいことを示せます。ということは、現在のほぼゼロに近い曲率の値を実現するためには、宇宙初期に非常に小さな値を曲率に選ばないといけません。こんなに小さな値を要請することは、理論的に考えると不自然なのです。