ホテルで「怖い部屋」に割り当てられた新人CA。戦々恐々と過ごす夜、誰かがドアを…目にした衝撃の場面とは?
誰かがドアを
コン、コン、コン。 その音は、夜の静寂の中、なんとか眠りについていた私の耳に、まっすぐに飛び込んできた。 ――え!? 何時? ベッドサイドの時計は2時8分。真夜中だ。仕事の呼び出し? ホテルの人? それとも。 ベッドの上から動けない。ノックは止んだ。 ――もしかして……彼? 眠る前、おやすみ、というメッセージと、だめもとで部屋番号を彰人に送っておいたことを思い出して、がばっと立ち上がる。 急いでドアに近づいて、覗き穴から廊下を見ると……誰もいない。 ――来るわけないよね。いくら同じホテルだとしても、リスクが高すぎるし。彼はなんてったってパイロットなんだから、明日、居眠り運転になったら困っちゃうしね。 そう、私の彼氏はパイロット。イケメン副操縦士の彰人から、入社半年で声をかけられて、付き合うようになった。でも一応社内恋愛だし、これは秘密。ただでさえ若手パイロットはCAの争奪戦。まだ2年目の私が彼女だと知ったら、きっと嫌がらせされてしまうという彼の心配の言葉を、私はくすぐったい気持で聞いた。 付き合うときに、もしフライトパターンが奇跡的に同じになっても、そこでは接触しないようにしようと言われていた。最近、経費削減でパイロットもCAと同じホテルの違うフロアにステイすることがあったから、本当は人目を盗んで忍び込みたかったけれど、彼は仕事にはストイックで翌日のフライトに支障が出ることはしないと言っていた。そういうところもかっこいい。 でも、彼じゃないならば、今ノックしたのは……? その時、何の前触れもなく、ドアノブがすうっと下がった。ロックしていたから、もちろんドアは開かない。……でももし、鍵をかけていなかったら? 私は思わず「誰!?」と叫び、ドアを抑えた。チェーンもかかっているから、鍵をあけられたとしても入ってこれはしない。必死でもう一度鍵穴を覗く。廊下は蛍光灯が弱弱しく灯り、しんとしている。 心臓がどくどくと音を立てていた。 パジャマ替わりに着ている部屋着の上にパーカーを着て、スマホをつかむ。もうこの部屋にはいられない。靴を履こうとしたとき、壁にかけられている絵に頭をぶつけて、その拍子に絵が盛大にずれた。直そうとして、息をのむ。 ――やだ、なにこれ!?
小説/佐野倫子 イラスト/Semo 編集/山本理沙
佐野 倫子