アングル:「トリプルレッド」で米債務上限巡る政治対立は回避か
Davide Barbuscia [ニューヨーク 13日 ロイター] - 米共和党が大統領職と議会上下両院の多数派を制する「トリプルレッド」を達成したことで、近年市場の混乱を招いてきた連邦債務上限を巡る政治的対立がトランプ次期大統領の政権下で起きる懸念は小さくなった。その意味で、投資家は安心するかもしれない。ただ、長期的には国債に圧力をかけかねない、財政拡大の可能性も高まっている。 エジソン・リサーチによる13日段階の予測に基づくと、来年1月に始まる新議会で共和党は上下両院の多数派の地位を獲得できる見通しだ。 第2次トランプ政権は、トリプルレッドのおかげで減税や輸入湯関税などの政策を実現できる余地が広がる。これは成長を加速させる半面、インフレ再燃や財政赤字拡大につながる恐れもあり、市場にとって必ずしも好材料ばかりとは言えない。 だが議会と政府を同じ党が支配すれば、債務上限引き上げの合意は容易になる可能性がある。昨年は債務上限に関する与野党の激しい対立が続き、株式や債券が売られたほか、米国がデフォルト(債務不履行)の瀬戸際に追い詰められ、信用格付けが打撃を受けた。 ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナルの米金利戦略責任者を務めるジョナサン・コーン氏は「(トリプルレッドで)先行きの財政の持続可能性の問題は解決しないが、債務上限に対する懸念は少なくなり、より短期的な不安は払しょくされる」と説明した。 指標となる米10年国債利回りは大統領・議会選直後の6日、4カ月ぶりの高水準を記録した。共和党の躍進を受けて投資家が成長上振れだけでなく、物価上昇と財政赤字の拡大に備えている様子がうかがえる。 一方で米国のデフォルトに対する保険料を示すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のスプレッドは選挙後に急低下。S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスのデータに基づくと、5日に49ベーシスポイント(bp)だった期間1年のスプレッドは、13日時点で18bpに縮小した。 選挙にかけてスプレッドは急速に上昇していて、大統領と議会を与野党勢力が分け合い、来年債務上限問題がまた紛糾しかねないと市場が想定していたことが分かる。 マッコーリー・グループのグローバル為替・金利ストラテジスト、ティエリー・ウィズマン氏は「米ソブリンCDS(のスプレッド)縮小は、議会と大統領職を同じ党が支配する限り、債務上限危機がクレジット事由やデフォルト事由となるリスクが低下したことを映し出しているのは間違いない」と述べた。 昨年は民主党のバイデン大統領と共和党が優勢な下院が、何カ月にもわたる政治的なチキンレースの末にようやく債務上限(31兆4000億ドル)の適用一時停止に合意し、かろうじてデフォルトを回避した。 しかしこの騒動が米国の信用力を傷つけた。フィッチは最高水準だった米国債の格付けを1段階引き下げ、ムーディーズは格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更。ムーディーズは理由の1つとして、議会の二極化によって財政改革で合意する能力が制限されている点を挙げた。 債務上限は来年1月2日に復活する見通しだ。複数のストラテジストの見立てでは、上限問題が解決されなければ、来年後半には財務省の手元資金が枯渇して債務返済に応じられなくなる。 ただJPモルガンのストラテジストチームは、債務上限についての最も激しい論争は「民主党のホワイトハウスと共和党の下院の間で起きた」以上、今回は昨年のような対立が生じる公算は低いと記した。 それでも債券投資家には別に心配の種がある。既に成長加速とインフレ再燃の観測を背景に、市場は米連邦準備理事会(FRB)による来年の利下げ幅の想定を縮小し、債券価格を圧迫している。 トリプルレッドはこの重圧を強めかねない。主要格付け3社で唯一、米国債の最高格付けを維持するムーディーズは先週、米国の財政健全性に対するリスクが増大していると警告した。 日興アセットマネジメントのチーフ・グローバル・ストラテジスト、フィンク直美氏は、財政赤字の拡大は最終的に投資家が米国債保有に際してより高いプレミアムを要求する事態につながってもおかしくないと指摘。「外国の投資家が米国の対外赤字を穴埋めするためのプレミアム上乗せを求めれば、債券市場は混乱するかもしれない」と述べた。