『少年ジャンプ』実写化作品に旧作が多いのはなぜ? 共通点から膨らむ世界的ヒットの夢
鈴木亮平が主演を務める実写映画『シティーハンター』が、4月25日よりNetflixで世界独占配信される。同作は1980年代の『週刊少年ジャンプ』を代表するハードボイルドマンガを原作としており、制作が発表された時から大きな注目を集めていた。 【写真】実写版『幽☆遊☆白書』はキャストも話題に 『シティーハンター』に限らず、ここ数年“ジャンプの名作マンガ”が全世界向けに実写化される動きが次々と起きているように見える。その背景には、一体どんな事情があるのだろうか。 具体例を見てみると、Netflixでは2023年8月に『ONE PIECE』の実写ドラマが配信されたばかり。同作は原作者・尾田栄一郎が自らエグゼクティブ・プロデューサーを務めた渾身の力作で、週間グローバルランキング(英語シリーズ)において3週にわたって1位を記録する快挙を成し遂げた。 同じくNetflixで数か月後に実写ドラマ化されたのが、冨樫義博の『幽☆遊☆白書』。日本とアメリカの制作スタッフによる連携体制で作られており、週間グローバルランキング(テレビ・非英語部門)で2週連続の1位を達成するヒット作となった。また興行収入は振るわなかったものの、同年には車田正美の『聖闘士星矢』も『聖闘士星矢 The Beginning』というタイトルでハリウッド映画化されている。 こうしてあらためて作品名を並べてみると、数世代前のジャンプマンガが実写化の題材となっていることがよく分かるだろう。『シティーハンター』と『聖闘士星矢』は1985年、『幽☆遊☆白書』は1990年に連載が始まった作品。『ONE PIECE』は例外的に現在も連載が続いているものの、第1話が掲載されたのは今から25年以上前の1997年だ。 また、もう1つの共通点として「海外で知名度が高い」ことも挙げられる。アニメの影響によって昔から海外に多くのファンがいた作品が、こぞって実写化されているのだ。 少しこのあたりの背景を説明すると、ジャンプ作品のアニメは1980年代頃から海外でよく放映されていたため、「子どもの頃にテレビでジャンプアニメを観ていた」という層が一定数存在する。たとえばフランスでは、『クラブ・ドロテ』という子ども向け番組で放送権が安かった日本のアニメが多数放送され、爆発的な人気を獲得。そのラインナップのなかには、『シティーハンター』や『聖闘士星矢』なども含まれていた。 他方で、アメリカでは『ドラゴンボールZ』がケーブルテレビで放送されていた影響が大きいと言われており、さまざまなヒップホップの楽曲で「GOKU」(悟空)などのワードが引用されるという現象も起きているほどだ。現在のムーブメントに先駆けて、2009年に同作がハリウッド実写化されていたことも、知名度の高さゆえだろう。 アニメとは別に、集英社はジャンプマンガを海外で広めるための施策も行っている。その代表例がグローバルに展開されている『MANGA Plus by SHUEISHA』で、これはジャンプ系列誌の連載を日本と同じタイミングで読めるプラットフォームだ。 さらに2023年10月からは有料のサブスクサービス『MANGA Plus MAX』が始まり、完結済みの作品まで含めて読み放題となる「Deluxeコース」も開設された。こうした取り組みによって、一層ジャンプ作品が海外からアクセスしやすくなった上、最新の連載作品が注目を浴びる機会が増えたため、実写化をめぐる状況にも大きな影響を及ぼしそうだ。 ところでここ数年実写化されたマンガには、もう1つ別の共通点もある。それは、ほとんどがバトルものの作品ということ。『週刊少年ジャンプ』にはギャグやラブコメ、スポーツなど、さまざまなジャンルの金字塔が存在するが、なぜかそうした作品はあまり実写化の題材となっていない。 バトルものは誰にでも面白さが伝わるため、グローバル展開に向いているのかもしれないが、ジャンプ作品は本来もっと豊かなポテンシャルを秘めているはず。こうした状況には「もったいない」という感情も湧いてきてしまう。 とくにスポーツマンガに関しては、まさに“金脈”が眠っている印象だ。世界中にファンがいる『キャプテン翼』や20数年ぶりの新作劇場アニメが大ヒットした『SLAM DUNK』などは、その筆頭ではないだろうか。 また、20年ほど前にブームを呼んだ囲碁マンガ『ヒカルの碁』も、実は実写化にうってつけの作品ではないかと思われる。題材的に、一見グローバルな展開に向いていないように見えるかもしれないが、2023年にはNetflixで日本の大相撲を描いたドラマ『サンクチュアリ -聖域-』が大ヒットしていた。これはアジアならではのローカルな題材でも、描き方によっては普遍的なエンタメになることの証明だろう。 最近のヒット作でいえば、ファミリードラマとスパイものを融合したコメディの『SPY×FAMILY』などは、どこの国でも受け入れられそうな設定だ。また2022年12月より『少年ジャンプ+』で連載されている将棋マンガ『バンオウ-盤王-』は、長命のヴァンパイアが現代の最強棋士たちに挑むという斬新なストーリーで、ファンタジーとリアルのバランスが実写化に向いている印象を受ける。 現実に実写化が進行している作品としては、『僕のヒーローアカデミア』や『NARUTO-ナルト-』のハリウッド映画化が発表されているほか、『DEATH NOTE』の新作ドラマ制作も報じられている。この中からグローバルヒットが生まれれば、さらに新たな企画にもつながり、よりジャンルの幅が広がっていくことも期待できるだろう。ジャンプマンガの新世界は、まだ始まったばかりだ。
キットゥン希美