試合を終えナダル（右）と握手する錦織圭

【ベテラン記者コラム】 男子テニス元世界ランキング1位で、四大大会のシングルス通算22勝のラファエル・ナダル（スペイン）が今季限りの現役引退を正式表明した。38歳の元王者は近年、股関節などの故障に苦しんだ。引退を示唆しつつ臨んだ今シーズンはパリ五輪に出場し、シングルスは2回戦敗退。四大大会最終戦の全米オープンは棄権した。11月に母国で行われる国別対抗戦デビス杯決勝大会が最後の舞台になるという。 全盛期にナダルとしのぎを削った元世界ランク4位の錦織圭も、ここ数年は股関節や右肩などの故障に悩まされている。2人の激闘で記憶に残るのは、2016年リオデジャネイロ五輪シングルス3位決定戦。第4シードの錦織が第3シードのナダルを破り、銅メダルを手にした。この競技の日本勢のメダル獲得は1920年アントワープ大会で熊谷一弥が銀メダルを獲得して以来、96年ぶりの快挙だった。 錦織はナダルとの169分に及んだ激闘を制し、右手をリオの空に突き上げ、スタンドに向かって日の丸を掲げた。3位決定戦は四大大会やツアーにはなく、準決勝でアンディ・マリー（英国）に完敗を喫し、気持ちの立て直しが鍵だった。普段ならホテルに閉じ籠もるが、選手村に滞在する五輪ではスタッフと食事をし、ナダル対策の映像を一緒に見た。 対策通りに積極的に前に出て攻め、第1セットを奪取。第2セットも5―2と相手を追い詰めたが「メダルを意識した」と重圧に襲われ、このセットを奪われた。もう一度、錦織を奮い立たせたのは「日本のためという気持ちでやって、今までにない感情が出てきた」という勝利と表彰台への執念だった。第3セットは力を振り絞り、自分のプレーを出し切った。 両者はその後、18年のモンテカルロ・マスターズ、19年の全仏オープン、21年のバルセロナ・オープンで顔を合わせいずれもナダルが勝利。対戦成績は錦織2勝、ナダル12勝で終えた。 錦織は22年1月に左股関節の手術を受け、23年6月に下部ツアーで大会復帰したが、同7月にアトランタ・オープンで膝を痛め、再び長期欠場に。今年3月のマイアミ・オープンで8カ月ぶりに復帰し、9月のジャパン・オープンでは8強入りを果たした。ラリー戦は優位に立つなど、けがに苦しんだ様子はなく、確かな収穫を得た。

日本のエースも34歳となり、14年全米オープン決勝で敗れたマリン・チリッチ（クロアチア）戦を「人生の中で一番悔いが残っている試合といわれれば、あの試合を選ぶ」と振り返るほど、競技人生の晩年に差し掛かっている。ともに故障を克服し完全復活を果たした姿で、赤土の王者との再戦を見てみたかった。