ねこいる?→ババーン→ねこいる! 子どもに大ウケの「頭は良くならない絵本」が話題(レビュー)
例えば、パンの入った紙袋。リコーダーを吹く少女。見開きに描かれた絵の余白にはたったひとこと、やや控えめなサイズで〈ねこいる?〉の文字。はやる気持ちを抑えながらページをめくってみると――あらぬところから猫が次々に〈ババーン〉と勢いよく飛び出す。 【爆笑】そこにいたの!? 絵本『ねこいる』を見る(※面白すぎて閲覧注意) 2022年2月に刊行されるや二週間で重版が決定。その後もSNSを中心に口コミが広がり続け、現在十二刷。猫がいるのかいないのか、ただそれだけの内容にもかかわらず、シュールな展開と言葉の繰り返しが子どもたちに大ウケし、今なおファンを増やしている。 「基本は“いないいないばあ”と同じで、とことんシンプルなシステムであるぶん、最後の“ある仕掛け”を活かすために文字の濃さの調整にはこだわりました。あとはやっぱり猫たちの、あのなんともいえない表情やフォルムの妙ですよね。姿勢やしっぽの角度なんかに愛が詰まっていると感じます」(担当編集者) 作者のたなかひかる氏は、田中光名義でお笑い芸人として活動するほか、『サラリーマン山崎シゲル』等のギャグ漫画でも知られる作家。日本絵本賞を受賞した絵本デビュー作『ぱんつさん』以来、独特の世界観で読者を魅了してきた。 キャッチコピーは“頭は良くならない絵本”。思い起こすのは「ナンセンスの神様」の異名をとった長新太だ。不条理が不条理のまま、当たり前のように息づいている世界のふしぎなおおらかさに触れた子どもの頃の自分は、知らず知らずのうちに心の余白を押しひろげていたような気がする。 「“絵本はもっと自由でいい”というのがたなかさんの信念。今は子どもたちの生きる幅が狭くなっている時代というか、早くから“大人≒いいビジネスパーソン”になるためのコツを身につけるよう求められていますよね。だからこそ、親のニーズをキャッチアップするのではなく、“子どもが腹の底から笑える本”を目指して作ったのですが、ありがたいことに親御さんも一緒になって爆笑してくださっているようで。せわしない日々のなかで“怒らない時間”を持つきっかけになったのなら嬉しいです」(同) [レビュアー]倉本さおり(書評家、ライター) 1979年、東京生まれ。毎日新聞文芸時評「私のおすすめ」、小説トリッパー「クロスレビュー」、文藝「はばたけ! くらもと偏愛編集室」、週刊新潮「ベストセラー街道をゆく!」を担当、連載中。ほか『文學界』新人小説月評(2018)、『週刊読書人』文芸時評(2015)など。ラジオ、トークイベントにも多数出演。作品の魅力を歯切れよく伝える書評が支持を得ている。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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