「余命1年」を淡々と受け入れられたある趣味の力 「大地に還る」という感覚が心の中によみがえった
おそらく、この「大地に還る」という感覚が、今回の余命宣告にあたっても心の中によみがえったのだと思う。 医療への距離感は、今回は診察、CT画像、入院生活などを通じて縮まっていき、進行がんを決定づける証拠が揃っていたことから、現実を受け入れざるを得なくなった。とはいえ、盲目的に医療を信じているわけではない。常に客観的に一歩引いたところから見ているつもりだ。そんな意識と「大地に還る」感覚があいまって、がんとの共存生活を決めたというわけである。
■退院の日、はたして請求額は? 手術から6日後、退院の日がやってきた。朝5時前に目覚めた。5時過ぎには看護師さんが集荷袋にたまっている尿のチェックに訪れた。こちらが起きていることに気がつくと「後で採血があります」と小声で教えてくれた。6時過ぎ、採血2本。血を抜かれることにすっかり慣れてしまった。 9時過ぎには、荷物まとめもすべて片付き、後は会計が済むのを待つのみ。病室で待機していると主治医が回診にやって来て「まだ貧血が少し残っていますが、顔色もよくなってきたし大丈夫。1週間後に一度外来に来てください」とのことだった。
妻が10時前に到着し、1階に下りて会計を済ます。高額療養費制度を利用したので、25万6000円の請求額に対し、支払いは数万円で済んだ。ありがたい制度である。もっとも、これが医療費膨張の一因になっていると思うと心苦しいが、現役時代に保険料をさんざん納めたので今回は大目に見てもらおう。 高額療養費制度とは これは日本ならではの、実にキメ細かい医療費助成制度である。医療費の家計負担が重くならないよう、1カ月の上限額を超えた場合、その超えた額を健保などが支給する制度である。
厚労省は上限額の見直しについて検討中で、2025年夏に引き上げる案などが有力視されている。 ■上限額は条件によって異なる 上限額は、年齢や所得に応じて定められている。いくつかの条件を満たすことで、負担をさらに軽減する仕組みもある。 69歳以下の上限額は次の通りだ。 【年収約1160万円~】25万2600円+(医療費-84万2000円)×1% 【年収約770万~約1160万円】16万7400円+(医療費-55万8000円)×1%
【年収約370万~約770万円】8万0100円+(医療費-26万7000円)×1% 【年収約370万円まで】5万7600円 【住民税非課税者】3万5400円
山田 稔 :ジャーナリスト