『きみの色』が観客と共有する特別な“好き” “秘密の園”を持ち続けているすべての人へ
「僕たちは“好き”と秘密を共有しているんだ」 映画『きみの色』の中で、ルイ(木戸大聖)が、バンド仲間のトツ子(鈴川紗由)ときみ(高石あかり)に話す場面がある。 【写真】クレジットを見るまで気づかない? 新垣結衣が演じたシスター日吉子 まさに『きみの色』を観るという映画体験は、彼ら彼女たちが心の内側に秘める“好き”を目の当たりにするという特別な行為のことを言うのではないか。つまり、トツ子ときみとルイが「“好き”と秘密を共有する」特別な関係であることと同じように、観客もまた、本作の登場人物たちとある種特別な関係性で結ばれる。まるで小さな囁き声のような、彼女たちの心の声を聞き取った人は、自分の中に芽生えた「好き」を次の誰かに伝えたくなる。そんな映画だ。 『きみの色』は、『映画けいおん!』『映画 聲の形』の山田尚子が監督、『けいおん!』シリーズのみならず、2022年のTVアニメ『平家物語』における山田尚子とのタッグが記憶に新しい吉田玲子が脚本を手掛けた。トツ子、きみ、ルイの声をそれぞれ演じる、オーディションから選ばれた鈴川紗由、髙石あかり、木戸大聖の3人も素晴らしい。鈴川紗由の、明るさと清らかさと、ふんわりとした柔らかさが相まった声。『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』でもカリスマ性のあるキャラクターを演じていた髙石あかりは、芯のある凛とした声が美しい。また、『海のはじまり』(フジテレビ系)でも心優しい弟を演じている木戸大聖の、言葉の端々に優しさを滲ませる、声の魅力に驚かされた。そして、彼女たちを見守るシスター日吉子の声を演じる新垣結衣は、『違国日記』で演じた槙生役に続き、多感で繊細な少女たちと絶妙な距離感で向き合う、魅力的な大人を体現していた。 主人公のトツ子は、全寮制のミッションスクールに通っている。彼女は幼い頃から、人が「色」で見えるが、自分自身の「色」を知らない。そのことを知られたら不思議がられるので、誰にも言わないようにしている。彼女が一際「きれいな色」だと魅了されるのがきみだ。トツ子と同じ学校に通っていたが、思うところあって突然中退し、そのことを大好きな祖母・紫乃(戸田恵子)に言えないままでいる。そして2人が出会う、離島に住む、テルミンで美しい音色を奏でる青年・ルイ。母親に家業の病院を継ぐことを期待され、音楽作りに夢中なことを隠している。そんな、大切な人たちのことを思う余り、本当の自分を隠して生きている3人がバンドを組んで、奏でる音、見せる「色」はどんな色なのか。 本作は、彼女たちと彼が、音楽を奏でることでどう変わっていくかを描いた作品ではない。内に秘めていた思いを外側に出すことで、その後の人生が劇的に変わっていくわけでもなく、きっと優しい彼らは、大切な人たちの思いを優先して、人生を前に進めていくのだろう。