93歳、現役の看護師が70年以上も目指したこと。「人の治る力を引き出したい」
人生100年時代。元気に働くシニアも多くいます。70年以上看護に携わり、93歳の今でも仕事を続けているのは、川嶋みどりさん。本や雑誌の原稿を書いたり、講演会に出かけたり、オンラインで後進の指導をしたりと、忙しい毎日を過ごしています。そんな川嶋さんに長きにわたる仕事人生を振り返っていただき、今感じることを語ってもらいました。 【写真】看護師としての駆け出しの頃
看護師になったのは戦後直後。女性、看護師は下に見られていました
川嶋さんは、1931年韓国の京城(現在のソウル)で、銀行員の父、釜山で生まれ育った母の元に生まれました。戦争が始まると父の転勤で韓国、中国に引っ越し、1945年8月15日に北京で終戦。父の実家のあった島根県に引き揚げ、小さな田んぼを耕して、細々と暮らしていました。そんな中で、川嶋さんは東京の日本赤十字専門学校に入学し、卒業後は看護師として働きました。 「私が働き始めたころは、男性優位の時代。戦後、民主主義という言葉が叫ばれていましたが、女性は常に下に見られていました。学校では、『医師も看護師も対等で、看護師は専門職だから誇りをもって』という教育を受けましたが、現場では医師は男性が多くて、地位が上、女性が多い看護師はその下、そんな雰囲気でした」と川嶋さん。 初めて配属されたのは小児病棟。失敗したり、怒られたこともたくさんありましたが、このときの経験は、看護師としての礎(いしずえ)になりました。女性、看護師が下に見られていたことは悔しい思いもしたけれど、経験を積んで、徐々に「看護師は医師にできないことをやっている」と自信をもてるようになったそうです。
赤ちゃんのうんちが顔に…。排泄と食事の大切さがわかった貴重な経験でした
新人看護師時代、先天的な腸の病気で自分ではなかなか排便ができない赤ちゃんの看護を担当しました。赤ちゃんのお腹が膨らんで、まるでカエルのようになり、ミルクを飲ませようと思っても、お腹がすかないのか飲んでくれません。そこで、便が出るように、赤ちゃんのお尻をこよりで触る“こより浣腸”をしてみました。 「赤ちゃんのお尻からうんちがバーッと吹き出してきて、顔や白衣にかかってしまいました。初めての体験でびっくりしましたが、大急ぎで着替えて病室に戻りました。そして、赤ちゃんにミルクを飲ませてみたら、今度はゴックンゴックンと飲んでくれました。うれしかった! 同時に、人間の排泄と食事はつながっているんだと実感できました。もちろん、学校で習っていましたが、実体験としてわかったことは、看護師として大きな学びになりました」