ボーナス支給後、即退職…社員の“不義理”会社から「返還要求」される可能性は?【弁護士解説】
日本でも辞めた社員に事実上「賞与返還」求めた裁判例が
通信教育・出版事業を手掛けるベネッセがかつて、賞与をめぐって従業員を訴えた裁判例がある(東京地裁平成8年(1996年)6月28日判決)。 中途入社の社員A氏が、冬のボーナス査定期間在籍し、その後、賞与の支給日直後に退職。その際には賞与は満額が支払われたが、同社は規程では年内退職予定者は4万円×在籍月と主張。A氏に対して「過払い分を返還せよ」と“賞与返還”を求めたのだ。 このケースでは、満額では約170万円だが、同社の規程に従えば、退職予定者は約30万円。すでに支払われた金額からなんと8割以上もの減額となる。実質的に、「支払った賞与を返せ」と要求しているのと同義といっていいだろう。 賞与を支払った後に理不尽ともいえる企業側の“返還要求”。結局どうなったのか…。裁判所は、退職予定者と非退職予定者に賞与額の差を設ける規程は妥当でも、その差が「期待料」だとすれば、不当に差が大きいとして、非退職予定者の8割が相当と判断した。 同社は給与規程や支給基準書等を盾に正当性を主張したが、上記の労働基準法から逸脱している側面が強く、その訴えの多くが退けられる結果となった。
会社と金銭面でギスギスしないための心得
前出の裁判はかなり特殊な事例といえるが、労働基準法をベースに考えれば、日本ではよほどのことがない限り、会社側から賞与の返還を求められないと考えていいだろう。 「ただし」と辻本弁護士が助言する。 「法律で権利が守られているといっても、スムーズな退職のためには最低限のルールやマナーは守るべきでしょう。たとえば辞めるタイミングを間違えると、せっかくの賞与の権利を棒に振る可能性があります。 当然ですが、ボーナス査定期間に在籍していても、支給日前に退職してしまえば、タイミングによっては1円ももらえないこともあり得ます。ベネッセの事例のように、不当な減額は“違法”ですが、支給日の直後に退職が決定しているような場合、“期待料”はなくなりますから、それを理由に賞与を一定程度減額することはあり得るということになります」 なお、年俸制の企業の場合、年収を12で割った額を毎月支払うのが基本となるため、いわゆるボーナスはない傾向がある。その意味で、“賞与もらい逃げ”を回避するため、戦略的に採用している企業もあるかもしれない。 最後に、辻本弁護士は会社と金銭をめぐり、思わぬ摩擦を起こさないための心得を教えてくれた。 「賞与については、詳細は入社後でないとわからない場合がほとんどだと思います。入社前に前のめりに聞き過ぎてしまうと、“要チェック人物”とされる可能性も否めないですしね。ただ、少なくとも入社後にはしっかりと社内規程や就業規則に目を通しておきましょう。あとは権利ががっちりと守られているといっても、堂々活用するためには社員としての“義務”をしっかり果たし、ルールやマナーを守ることも大切だと思います。それさえしていれば、会社も変な対応はしないハズです」
弁護士JP編集部