【NATOはウクライナを守れるのか?】前NATO事務総長が語る課題と限界
目下問題とされている米国のATACMS長距離ミサイルや英国・フランスのStorm Shadow/Scalpに言及した訳ではないが、ストルテンベルグは去る5月28日の記者会見で、この問題を再考すべき時だと述べ、制限を解除することがNATO加盟国を紛争の当事国とする訳ではないと述べたことがある。 米国のバイデン大統領は、戦争をエスカレートさせ第三次世界大戦に至ることを心配して、ウクライナがATACMSをもってロシア領内の軍事目標を攻撃することを許容するつもりがないようであるが、このことは米国による拡大抑止の意義に深刻な問題を提起するように思われる。 バイデンはかねて中国による台湾侵攻に対して台湾を防衛することを明言して来ているが、特に、22年9月18日のCBSの番組で「ウクライナとは違って、中国侵攻の際には米軍が台湾を防衛するのか」と念を押されて、「Yes」と応答したことがある。バイデンは台湾を巡る紛争がエスカレートする危険性をどのように評価しているのか、全く明らかではない。
集団防衛既定の難しさ
もう一つは、ウクライナのNATO加盟に対して条約第5条の集団防衛の規定が提起する困難性についてのストルテンベルグの言及である。彼が指摘するように、ウクライナの施政の下にあることが確保され、ロシアによって容易に侵食されることのない一定の線を明確にし得るのであれば、問題を克服出来るかも知れないが、そのような可能性を現下の情勢から見通すことは非常に困難であるように思われる。
岡崎研究所