トヨタとマイクロソフトが生成AI「O-beya」構築 OpenAIの生成AI基盤で熟練エンジニアのノウハウを引き継ぐ
トヨタ自動車と米Microsoftは、11月19日(現地時間)に報道発表を行ない、トヨタが開発したAIエージェント「O-Beya」(オーベヤ、日本語で大部屋の意味)に関する発表を行なった。 【画像】MicrosoftがAzure向けに構築しているデータセンター、このような巨大なデータセンターが世界各地にある 両社によれば、O-Beyaはトヨタが長年開発で採用してきたエンジニアが1つの大きな部屋にいて作業することで技術やノウハウの継承が行なわれる「大部屋」制度をAI化したもので、そうしたAIが定年退職する前のエンジニアなどからノウハウを吸収することで次世代に引き継ぐためのシステムとなる。 ■ カイゼン活動の一環として導入されている「大部屋」、それをデジタルにする生成AI「O-Beya」 トヨタは、同社の業務効率改善の一環として「カイゼン」と呼ばれる生産性向上の取り組みを絶え間なく行なっている事はよく知られている。それと同時にトヨタの開発を支えている仕組みがあり、それが「大部屋」と呼ばれる大きな部屋に開発者などが固まって働く働き方だ。大部屋で一緒に働くことで、目標達成する阻害要因を一緒に見つけ、その過程でベテランから若手へ技術やノウハウなど無形の経験が次の世代へと受け継がれていくという一種の「システム」(制度)だ。 トヨタ自動車 パワートレイン開発 プロジェクトマネジャー 兼 DevOpsエンジニア 大西健二氏はその発表リリースの中で「トヨタでは自動車メーカーからモビリティカンパニーへのシフトを進めており、その中で大きなチャレンジは開発する部品の急速な増大にある」と述べ、バッテリや充電ステーションなど自動車だけでなく周辺部分も含めてさまざまな開発が必要になっており、世界各地にある開発拠点でも同時並行的に進められているという。このため、従来のように本社に集まって開発を進めるという訳にもいかなくなってきており、物理的な「大部屋」のシステムを、デジタルとのハイブリッド形式にすることが大きな課題になってきているのだという。 そこでトヨタが開発したのが「O-Beya」(オーベヤ)という日本語の大部屋に名称が由来するAIエージェントだ。AIエージェントというのは、ChatGPTのような生成AIを利用したAIアシスタントがそれぞれの企業向けにカスタマイズされ、さらに機能が強化されたものだと考えると分かりやすいだろう。 このO-BeyaというAIエージェントは、現在9つのAIエージェントから構成されている。それぞれエンジン用、バッテリ用、法令規則用などが用意されており、用途に応じて使い分けることが可能だという。イメージとしては、エンジンにめちゃくちゃ詳しいトヨタ専用ChatGPT、バッテリに関してめちゃくちゃ詳しいトヨタ専用のChatGPT……というような形でAIエージェントが用意されており、開発者がそこにアクセスして相談をするとその答えが返ってくる形になっている。それにより、世界中どこにいても、社内に蓄積されているノウハウに開発者がいつでもアクセスできるようになるため、大部屋で行なっていたような、蓄積されたノウハウの活用が可能になる。 現時点ではどのAIエージェントに質問するかはエンジニアが選ぶ必要があるが、将来的に質問に対してどのAIエージェントが答えるかは自動的に選択できるようになる計画だとトヨタは説明している。 ■ トヨタのO-BeyaはマイクロソフトとOpenAIの生成AI基盤を活用して構築されている こうしたトヨタのO-Beyaは、マイクロソフトが提供しているパブリック・クラウド・サービス「Azure」が提供する基盤の上に構築されている。技術的にはAzureが提供する「Microsoft Azure OpenAI Service」(Azure上でOpenAI社のAIモデル「GPT」を利用するサービス)と、OpenAIが最近提供を開始したマルチモーダルなAIモデル「GPT-4o」を利用して構築されている。 トヨタは、Azureが提供するデータベース「Azure Cosmos DB」が提供するベクターサーチ機能(画像認識などを含む検索機能)にAzure OpenAI Service経由で接続している。そうしたデータベースにはトヨタが過去に開発した車両のデザインデータやエンジニアの経験、道路交通法のような自動車関連の法令、さらにはベテランエンジニアにより書かれた書籍・文書などが保存されており、O-BeyaのAIエージェントはそうしたトヨタのノウハウの塊であるデータにアクセスしながら、最適な答えをエンジニアに示せる。 トヨタによれば、将来的には技術的な図面やチャットでやりとりしたようなテキストなども含まれるようになり、例えばベテランのエンジニアが退職したときに起きがちな知識や経験が次の世代に引き継がれないという課題を回避できるようになる。 すでに2024年1月からパワートレーンを開発している800名のエンジニアがO-Beyaを利用しており、エンジン、トランスミッション、ギヤシフト、アクセルといった部品の開発に活用されていると説明されている。
Car Watch,笠原一輝