「4月17日の豊後水道の地震」は、ほんとうに「南海トラフ巨大地震」の前兆ではないのか
エキスパートエラーもある
私は地震学の専門家ではないので、専門家の意見を尊重するしかないが、一方で2011年3月11日に発生した東日本大震災2日前の地震を思い出し、専門家の意見をそのまま鵜呑みにしていていいのか、漠然とした不安を排除できないでいる。 東日本大震災の2日前、2011年3月9日午前11時45分、牡鹿半島の東、約160キロメートル、深さ8キロメートルを震源とするM7.3の地震が発生した。その地震による最大震度は宮城県栗原市などが震度5弱でほとんど被害もなかった。3分後に津波注意報が発表されたが、観測された津波高は大船渡で55センチメートルだった。この地震について、河北新報が翌日の朝刊に専門家の意見を掲載した。見出しは「三陸沖M7.3、宮城県沖地震『連動型』の危険性は低下か」だった。記事によると、「3月9日、三陸沖を震源とした宮城県北部で震度5弱を観測する地震が発生。T大学地震・噴火予知研究観測センターの某教授はこの地震について、「予想される宮城県沖地震と直接の関連はないが、宮城県沖地震で複数の断層面が同時に滑る、『連動型』の危険性が下がった」との見解を示したと書かれていた。 東北で当時恐れられていた最悪の地震は、この「連動型」地震だった。宮城県沖(牡鹿半島沿岸からその東方)と、さらに東側の震源域とが連動して地震が発生すると宮城県沖地震単体よりひとまわり大きな地震となり、M7.8~8.8程度の巨大地震になると想定されていた。それを地震の専門家が3月9日の地震によってエネルギーが放出され、連動型発生の危険性が低下したという見解を述べたのである。 実際は、巨大地震発生の危険性低下どころか、結果としてM9.0の超巨大地震である東日本大震災の誘発トリガーと推定される前震だったのである。この専門家の見解を新聞で読んだ人たちの中には巨大地震の発生が遠のいたと、ひと安心した人もいたかもしれない。後から振り返ればこの見解は著しいエキスパートエラーである。地震学は進歩したというが、地震予知などについてはまだまだ分からないことの方が多いようだ。だからこそ研究は今後も続けるべきだが、現時点で予知に関して専門家の意見や想定が絶対ではないという受け止めも必要ではないかと思っている。 さらに関連記事<「南海トラフ巨大地震」は必ず起きる…そのとき「日本中」を襲う「衝撃的な事態」>では、内閣府が出している情報をもとに、広範に及ぶ地震の影響を解説する。
山村 武彦(防災システム研究所 所長・防災・危機管理アドバイザー)