後を絶たない鉄道人身事故 運転士の心のケアは? 「今でも人が飛び込んでくる夢見る」と経験者
日常の中で、人身事故による鉄道の遅延や運転見合わせのニュースを見聞きしたことがある人は少なくないだろう。「乗客にけがはなかった」「列車に最大〇時間の遅れが出た」といった情報が流れる中で、運転士の気持ちを考えたことはあるだろうか。事故のショックから体の不調に悩まされたり、離職したりするケースもあるという。事故を経験した元運転士に当時の心境をたずねるとともに、どのような心のケアが必要なのか専門家に聞いてみた。 【写真】YouTubeで運転士時代の経験を発信するKOHさん 首都圏の大手鉄道会社に勤めていた元運転士のKOHさん(39)=関東在住=は、2011年に人身事故を経験した。午後9時半ごろ、特急列車を運転していたところ、通過駅のホームに立っていた人が小走りに列車に駆け寄ってくるのが見えた。「あれ?」と思った次の瞬間、ぴょんと線路に。警笛を鳴らし、非常ブレーキをかけたものの、ドーンという大きな音を立てて、正面ガラスの下にぶつかった。 周囲の列車に緊急無線で事故の発生を伝え、安全を確認した上で、駅員らとともに負傷者を線路の外へ。その後も現場検証、上司への報告、警察署での事情聴取などがあり、全ての事故対応を終えた時には、翌朝午前9時を回っていたという。「その時は気持ちが張り詰めていたが、その後どっと疲労感が出た」とKOHさん。事故を経験した後は1カ月近くは、ホームにいる人が全員怪しく見え、「飛び込んでくるのでは」という不安があったという。 人身事故を経験した同僚の中には会社をやめた人もいた。正面ガラスを破って人が飛び込んだことでけがをし、そのことがトラウマになってしまったという。「今でもホームから飛び込んでくる人の夢を見ることがあるし、駅で人身事故の情報に接すると心が痛む」と語る。 KOHさんは運転士の仕事への理解につながればとの思いから、元運転士として経験したことをYouTubeで発信しており、事故のことも話せる範囲で伝えている。「運転士がこんな経験をしているなんて知らなかった」「運転士を事故に巻き込んでほしくない」といったコメントや、現役運転士からも「理解してくれる人がいて、励みになる」と声が寄せられているという。「事故後、運転が怖いと感じる運転士もいる。配置転換など希望を聞いてもらえる体制を整えてほしい」と願う。