後を絶たない鉄道人身事故 運転士の心のケアは? 「今でも人が飛び込んでくる夢見る」と経験者
必要なメンタルケアは?
内閣府の2023年版「交通安全白書」によると、2022年の鉄道の人身障害事故件数(自死は含まない)は320件で前年比20.3%増、死者数は175人で前年比6.1%増。ホームから転落またはホーム上で列車に接触して死傷する事故は増加した。 鉄道会社に、事故を経験した運転士にどんなメンタルケアをしているか聞いた。JR西日本、東日本ともに「必要に応じて産業医による面談を行っている」とし、JR西日本は「ケースにもよるが、事故発生直後に運転士の精神的負荷を考慮し、他運転士に運転を交代するなどしている」、東日本は「事故発生直後は、乗務列車に指導員などが添乗するなどして、精神的フォローを行っている」としている。 事故を経験した運転士にどのようなケアが必要か識者に聞いてみた。事件事故など、悲惨な現場に遭遇して生じる精神的ショック「惨事ストレス」に詳しい筑波大名誉教授の松井豊さん(69)は、都内の私鉄でカウンセリングの助言をした経験がある。 松井さんは「事故の夢を見たり、体の不調を感じたりするケースがある。また、決して加害者意識を持つ必要がないにもかかわらず、持ってしまう人もいる」と語る。ケアとしては必要に応じて運転士の交代や休んでもらうことを挙げるとともに、経験者が仲間として支援する「ピアサポート」を提案する。「カウンセリングや傾聴訓練を受けた経験者が、自身のケースを打ち明けたり、当事者の話を聞いたりすることで安心感が芽生える。『こんなに大変な経験をしたのだから、つらいのは当たり前』と伝えることが大切」とする。 事故を経験した人に対して周囲はどのように対応すれば良いかもたずねた。「精神がしっかりしていれば事故の経験が乗り越えられるといった『根性論』を押し付けないでほしい。そして、相手の疲れや負担を考慮して心配するのは良いが、あたかも気持ちが分かったかのように声かけをすることはしないでほしい」と注意を促す。 厚生労働省のまとめによると、駅構内と鉄道路線上での自殺は合わせて年間約600件に上る。KOHさんは「列車に身を投げるなんてとても怖い行為だし、そこまで追い詰められた人の心境は推し量れない」とした上で、「自身の行為によって、その先に何が起こるのかを想像してもらいたいし、命を大事にしてほしい」と語った。