「出生前診断」は本当に人を幸せにするのか…「90%の妊婦が中絶を選択」という現実に対する、小児外科医の「考え」
赤ちゃんが生まれる前にわかること
いま一冊のノンフィクション書籍が大きな話題となっている。本のタイトルは『ドキュメント 奇跡の子 トリソミーの子を授かった夫婦の決断』(新潮新書)。著者の松永正訓氏は現在、小児科クリニックを開業している医師だが、かつては千葉大病院で小児外科医として多くの手術を執刀するかたわら、小児がんと遺伝子の研究を重ねて多数の論文も発表してきた。多くのノンフィクション書籍を著してきた作家でもある。 【画像】4歳から「インターナショナルスクール」に通った日本人の残念すぎる末路 なぜこの本を書いたのか、どのように取材したのか、舞台裏を聞いた。 ――まず、大前提の質問をさせてください。医学が進歩して、赤ちゃんが生まれる前の検査で、先天的疾患などさまざまな情報が分かる時代になりました。実際に何がどこまで分かるのでしょう? そして、その情報は本当に人を幸せにしていると思いますか? 松永「先天性疾患には大きく分けて二つあると思います。一つは、形態の異常です。つまり小児外科医や心臓外科医が内臓や心臓を手術して治す病気です。こうした病気は、ほとんど胎児超音波で診断がつきます。 もう一つは、染色体や遺伝子の異常です。染色体の異常といえば、染色体が3本になっているトリソミーが多いです(注1)。10年前から話題になっている新型出生前診断とは、トリソミーの有無を妊婦の採血で調べる検査です」 ---------- (注1)トリソミーとは、通常2本ある染色体が3本になっている状態を指す。生命の設計図に大きなエラーがあるので、脳や心臓や消化器などにさまざまな先天性疾患を合併する。 ---------- 松永「手術で治る病気は、出生前に診断がつくことで赤ちゃんや家族に恩恵があります。外科施設が整った病院へ母体搬送して、生まれる前からケアできるからです。 一方、染色体異常には治療法がありません。トリソミーの診断がつくと90%の妊婦が中絶を選ぶというデータがあります。中絶して幸せだと思う人はいないでしょう。そういう意味では遺伝情報の出生前診断は人を幸せにしているとは思えません」