米国務長官から面前で激怒された駐米大使も…その役割とは? 中台も関係構築に腐心、経験者「人間関係が仕事の8割」【ワシントン報告(12)駐米大使】
昨年末にかけ日本の駐米大使が交代した。「日米関係は外交の基軸」(岸田文雄首相)であり、大使が担う責任は重い。冨田浩司前大使は昨年11月にワシントンを離れる際、「人間関係が仕事の8割」と語った。米国の関心が台湾海峡に向く今、中国と台湾の代表も対米関係には腐心している。各国大使は本国の意思と指示に基づいて行動する。できることに限界はあるが、それでも人によって米国への食い込み方に差は生じる。個性も重要である。(共同通信ワシントン支局長 堀越豊裕) ロシアが核攻撃に踏み切ったらアメリカはどこに報復するか? 米政権内で行われていた机上演習の衝撃的な中身
▽対立時は大変 ワシントン北西部の一角に白壁の豪勢な日本大使公邸がある。昨年11月下旬。冨田氏は離任前の日本メディアとの昼食会で、和食に手を伸ばしながら「大使とは引き継がれ、引き継いでいく仕事」と3年弱の任期を総括した。 江戸末期の黒船来航以来、日米関係は良いときも悪いときもあった。米中関係悪化の裏返しという面はあるが、今のように日米が良い場合は仕事がしやすい。対立する時は大変だ。 真珠湾攻撃の前に手渡すべき最後通告が遅れた当時の野村吉三郎大使は、出向いた国務省でハル国務長官から「かくのごとく偽りと歪曲に満ちた公文書を見たことがない」と面前で激怒された。 太平洋戦争に至るまで、野村大使はルーズベルト大統領と何度となく会談を重ね、戦争回避を模索した。大使レベルで米大統領と会談するのは容易でない。海軍武官としてワシントンに以前赴任した際、ルーズベルト氏が海軍次官だったため、個人的に親しい関係を築いていた。回顧録で「大いに努力はしたが、内外の大勢上いかんともなしがたく、国交調節は不成功に終わった」と無念さを表した。
▽各国が苦労 大使というと華やかな社交を思い浮かべがちだが、冨田氏は必ずしも口数が多いタイプではない。ワシントンが長い邦人からは「話の取っかかりが難しい」との声も聞いた。 それでも「仕事には厳しいが、任せて細かくは言わない人」(複数の大使館幹部)と信頼が厚く、メディアにも誠実に対応した。ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)でインド太平洋調整官を務めるカート・キャンベル氏ら知日派との関係を軸に任期を乗り切った。 超大国米国との関係づくりは各国とも非常に重要だ。大使はその最前線にいる。日本は恵まれている方だろう。先進7カ国(G7)の一角を占め、国際的に指折りの経済規模を持つ。軍事的には同盟関係だ。大使も有形無形の好待遇を受ける。それ以外の国はどうなのか。 ワシントンでの会合で知り合ったオーストリアのペトラ・シュレーバウアー大使に尋ねると、「駐米大使の仕事は結構大変。英国ぐらいの大国になれば別だが、われわれはそうではない。自国の得意分野を生かして関係をつくっている」と語った。