海・川・湖で「助けに行った大人」溺れる事故が相次ぐ…「水に飛び込むのは最終手段」専門家が断言する理由
目の前に溺れている人がいたら…
冒頭の事故のように、溺れた人を助けに行った人が亡くなる「水難救助死」も後を絶たない。遠山氏は、救助で命を落とした人をことさら称賛することも、反対に非難することも違うとした上で「自らが水の中に入っていって助けるというのは最終手段であり、ライフジャケット着用などの備えなく飛び込むのは極めて危険」と断言する。 「前述のように、プールと海・川・湖では環境がまったく異なり、たとえば海難救助のプロである海上保安官であっても、水に飛び込むのはあくまで『最終手段』です。しかも、飛び込む際は、必ずライフジャケットを着用します。 では目の前に溺れている人がいた場合にどうするのがベストかは、ケース・バイ・ケースで一概には言えません。声をかけて浅瀬に誘導する、付近の人に協力を求める、浮力のあるものを投げ込む、警察(110番)・消防(119番)・海上保安庁(118番)といった公的機関に救助要請をすることなども、それぞれ“できること”のひとつではあります。 しかし、やはり普段から『備え』に重点を置いて考え、行動していただくのが、命を落とさないという点では一番効果的ではないでしょうか」
水難救助死「遺族」の“やり切れなさ”
本人は善意に基づいて救助に向かったとしても、万が一命を落とすようなことがあれば、残された遺族の悲嘆は想像を絶するものだろう。水難救助死の遺族への補償について、遠山氏は厳しい現実を指摘する。 「警察官や消防官、海上保安官は職務上、ライフセーバーなどは契約内容により溺れている人を救助することとなります。ところが一般の民間人の場合、道義的責任は別として、“他人”に対する救助義務はありません。水に飛び込んで命を落としたとしても、あくまで“自己責任”となってしまうのです。 このため、損害賠償請求しようにも、最初に溺れた人に責任を追及することは難しいのではないでしょうか。 また基本的に、海・川・湖は公共のものですが、自治体などに管理責任があるとしても、すべてに柵を設けるなど“完全な対策”をすることは物理的に困難です。こちらも、損害賠償請求をするのはハードルが高いと思います」(遠山氏) なお、警察官や海上保安官の職務上の協力要請によって救助に参加し、なんらかの損害を負った場合は、それぞれ「警察官の職務に協力援助した者の災害給付に関する法律」「海上保安官に協力援助した者等の災害給付に関する法律」によって補償がなされることになっている。ただし危険を伴う救助業務の協力を民間人に要請するケースは非常にまれであり、少なくとも遠山氏が海上保安庁に奉職した約40年間でかかわったミッションの中では「一度もなかった」という。 「繰り返しになりますが、人工的に作られたプールと自然の海・川・湖では環境がまったく異なり、溺れてしまってからできることはほとんどありません。それは、泳力に自信がある人でも同じです。 『溺れたらどうするか』ではなく、『溺れないためにどうするか』を起点に考えることが一番の水難防止になることを、多くの方に自覚していただければと思います」(同前) 間もなく9月を迎えるが、まだまだ暑い日が続く中、これから水遊びに出掛ける人もいるかもしれない。「自分は大丈夫」という過信が大きな落とし穴であることを胸に、事前の備えに力を注ぐべきだろう。
弁護士JP編集部