函館に美浦追い直前輸送が増えそう その背景にある「物流問題」【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】
◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」 函館開幕週に現地で取材したのは初めてだった。函館スプリントSであればカレンチャンの勝った2011年に行ったが、当時はまだ函館が2開催計8週あった時代で、函館スプリントSは7月開催だった。まだ肌寒いのに馬場開場午前5時半。新鮮だった。 通常であれば出走するほとんど全ての馬を目の前で調教観察できるはずなのだが、今年は多少事情が異なっていた。火曜や水曜に美浦で時計を出してから直前輸送で参戦するケースが例年より多い。 数えてみると、最終追いの時計を4、5日の美浦で出して、8、9日に函館で出走した馬の成績は計18頭で【1・1・2・14】。1週前に美浦で出した時計が最終追いになっていて、その後輸送、到着後に軽め調整としたケースは除いている。昨年について同様の基準でカウントすると、23年6月10、11日の函館出走馬で6、7日に美浦で時計を出した馬は12頭で【3・0・1・8】で12頭。22年は【0・0・0・10】。このほか栗東追いの直前輸送が1頭いて複勝圏を外している。 22年が馬券的には全滅しているので、単純に「成績は下降傾向」とは言えないが、このケースの総数に関しては、少なく見積もっても5割以上増えている。背景を探ってみると、開幕週だけの事情ではなさそうだ。 「物流2024年問題」。一連の「働き方改革」によって自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間と制限された。馬運車の運転手確保が難しくなっている。 放牧先から函館や札幌に直入させようと思っても、その道内輸送でドライバー確保が障壁になっているという。中でも馬運車の運転は特殊技能の職人芸だ。一朝一夕には補えない。「もう、おれが大型2種免許取って、個人事業で運送業も立ち上げて、自分で運転して持ってこようかな。人を使わなきゃどれだけ運転しようがいいんだろ?」とは、某トップトレーナー。半分笑ってはいたが、残りの半分は真顔だから深刻ではある。 出馬投票した馬の輸送はめどが立つ。もちろん、出馬投票するからには陣営は勝算をはじくというのが建前だ。ただ今年の函館では、本音の部分では「今回は函館入りするための出走。真の目標は使った後の続戦」というケースも紛れ込んでいると思って出馬表を眺めたほうが良さそうだ。
中日スポーツ