最近、物忘れが激しくて…それ、認知症予備軍「MCI」かも 「無関心、家でぼーっ」は進行サイン?、専門家「心の変調に注意を」
9月は「認知症月間」。認知症の予備軍といわれ、関心を集めるのが軽度認知障害(MCI)だ。放置すると症状が進み、認知症へと移行してしまう可能性がある。国は5月、2025年にMCIの高齢者は564万人に上るとの推計を初めて公表した。早期発見が重要だが、加齢による物忘れと見分けにくいともされる。何に着目し、どう治療につなげたらいいのか。 【写真】〈関連〉5項目のチェックリストで認知機能を確認する
「健常な状態と認知症の中間がMCI」。精神科医で、鹿児島大学病院(鹿児島市)に開設されている県基幹型認知症疾患医療センターの石塚貴周副センター長(44)は説明する。 MCIは脳の認知機能が低下している状態。物忘れはあるが生活に支障はなく、機械操作など方法を忘れても説明書を読めば対応できる。石塚さんは「症状が別の病気と重なる部分もある。面談や検査を重ね慎重に診断する」と話す。 MCIの高齢者が認知症になる確率は1年間で約10%とされるが、終生移行しなかったり、健常に戻ったりする場合もある。それだけに早期発見が重要になる。石塚さんは意欲低下や抑うつ、怒りっぽくなるなど「心の変調」に注意するよう呼びかける。これらの症状は、認知症でも記憶力低下より先に現れるからだ。 仕事をリタイアした高齢者の場合、「何にも興味を示さず家でぼーっとしている姿を、家族は『現役時代は仕事人間だったから』などと捉えがちだが、進行のサインとも考えられる。注意が必要」と指摘する。
MCIや軽度の認知症には新薬が登場している。国内では昨年末に「レカネマブ」が発売され、今年8月には「ドナネマブ」に製造販売の承認が下りた。いずれもアルツハイマー型認知症の原因とされる脳の神経細胞を傷つけるタンパク質を除去し、進行抑制を狙う。 ただ適合するか詳細な検査が必要で、投与で細胞機能が元通りになるわけではない。石塚さんは「検査でMCIを早く見つけられたら、改善や進行を遅らせることが期待できる」と語る。 薬の使用に関わらず、運動や生活リズムを整えるなど生活習慣の見直しや地域の高齢者クラブなどへの参加を促す。「社会参加や人との交流は認知機能にいい影響を与える」と石塚さん。定期検査を重ね、認知症への移行が認められれば抗認知症薬の投与を提案する。 ◇認知症サポート医らに相談を MCIかもしれないと感じた時、家族はどうすればいいか。鹿児島市認知症支援室長の浜崎智加子さん(49)は「本人が最初に違和感を持つはず。様子を見ながら声をかけて」と話す。
本人がすぐに検査を望むとは限らない。浜崎さんは強く説得するよりも、かかりつけ医との連携を提案する。県内には「認知症サポート医」が約340人、「もの忘れの相談ができる医師」が約500人いる。「かかりつけ医が相談に乗れる可能性が高い。診察時に観察してもらうよう頼むのも有効」と助言する。 市町村の地域包括支援センターでも相談を受ける。医療機関のほか、支援に関する情報も得られる。浜崎さんは認知症サポーター養成講座の受講も勧める。「認知症になっても自分らしく生きていけるよう、正しい知識を持って向き合ってもらえたら」と話す。
南日本新聞 | 鹿児島